うぅっ………フラフラするぅ……
けど…けどっ、あとすこし!この大通りをまっすぐ行けば!
びたーーん!!
「あうっ……!?」
いたた、また何もないところで転んじゃった。
しかも昼間からこんな往来の真中で…は、恥ずかしい…
じゃなくて、早く起きないと!
「お嬢さん、怪我はないかね?」
「はぃ…?」
私の目の前に差し出される手。
無骨で、所々武芸ダコがあるけど、大きくて頑強な雰囲気。
視線は手から腕をたどって徐々に上に。そして
ズドン
私は恋をした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、ここは魔界の一角にあるバロック調装飾風の部屋。
この部屋の住人ノワール・カース・ヴィケットは、ヴァンパイアの貴族である。
白銀の長髪にルビーのような紅の瞳、全体的にバランスのとれた体型で
吸血鬼なのに見た目はリリムのように見えるかもしれない。
そしてそのような見た目を持っているだけあって、
攻撃的な美貌と評され、高飛車でプライドが高そうな性格だと思われている…が、
実はドジを踏むことが多く、性格もヴァンパイアらしくなくかなり穏やかだったりする。
だがそれ以上に頑張り屋で何事にもめげない強靭な精神力も持っている。
「えーっと、ケーキの配置…よし。カップの配置も…よし。
私はドジっ子だから少なくとも3回は確認しなきゃ。
それと……この瓶に入ってるのはお砂糖…よね?お塩じゃないかしら?
この前はお塩どころじゃなくて硼酸が入ってたら……何でか不思議だったけど。」
今日は彼女の友達たちと定期的に開かれるお茶会があるので、
日暮れからその準備に余念がない。
先日紆余曲折の末に手に入れた老舗菓子店『セプテット・シュプレヒコール』の
名物ケーキをふるまうつもりらしい。人数は5人分だ。
調度品もしっかり整えて、後は招待客が来るのを待つのみ。
「お嬢様〜。リーゼロッテ様が御到着いたしました。」
「はーい♪」
ノワールが雇っている稲荷メイドが一番乗りの客人を招き入れた。
「ごめんあそばせノワールさん。少々早く着きすぎましたわ。」
「まあリーゼちゃん!いらっしゃい!準備はもうできてるよ。」
まずはノワールと同じ種族、ヴァンパイアのリーゼロッテが到着したようだ。
こちらはずいぶんとお嬢様然とした性格である。
「あら、相変わらずこれを全部一人でおやりになられましたの?」
「うん。」
「折角何人も優秀な使用人を雇っているのですから、
大半は使用人にお任せしてもよろしいのではないのでは。」
「あはは、私にとっては準備からもう楽しくて仕方ないからね。」
「そうですの……お皿割ったりとか、紅茶の分量を間違えてはいませんわよね?
この瓶にはきちんとお砂糖が入ってますこと?ケーキは落とさずに…。」
「あのさ、私そこまでドジじゃないよ。」
「正直あなたが準備するというのは、若干不安がぬぐえませんわ……」
「うう…酷い言われようだわ。でも言い返せないのが辛いところ。」
別にリーゼロッテには悪意があるわけではないが、
思ったことを直接ずけずけ言ってしまうのはいかがなものか。
「お嬢様〜。オデット様とシェラーナ様が御到着に―」
「シェラーナではありません。森羅です。いい加減覚えて下さい。」
「うふふ、お久しぶりノワちゃん。」
「オデっちゃん、こっちこそ久しぶり!シェラちゃんもようこそ!」
「ですからシェラちゃんではなく森羅です。」
次に到着したのはラミアのオデットと、アヌビスのシェラーナ。
オデットは数年前に念願の結婚を果たし、今までずっとハネムーンを満喫していたそうだ。
シェラーナは……重度のジパングマニアで、衣装は当然着物で髪型も
ジパング風に結っている。しかし、それでも満足せず、半年前に改名までした徹底ぶり。
具体的には《シェラーナ・アルトゥン→三日月 森羅(みかづき しんら)》という感じ。
だが本人の意に反して友人たちは一向に改名後に慣れてくれないのが悩みだとか。
「さってっと、あとは…」
ヒュウウゥン
「ノ〜ワちゃん!!」
ガシッ
「うひゃあぁ!?ってヴィオラちゃん!?」
「ぴんぽ〜ん!大正解!」
「ちょっとヴィオラさん、玄関から入ってきなさいな。」
最後に、転移魔法でノワールの後ろに現れたのがリリムのヴィオラート。
容姿はノワールと結構似ているが、勝気で自信に満ちあふれた性格で、
大抵のことは何でもこなせる完璧超人。ノワールにとって最も付き合いが長い親友でもある。
ノワール達友人全員がそろったところで魔物娘達のお茶会が始まる。
『ノワちゃんが一目ぼれをした!?』
「う、うん…そうなの。」
魔物娘にとっては別に珍しいことで
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