――――――――――《Side Jung》――――――――――
気が付けば僕の身体はこの場にあった。
どの方向を見渡しても遮るものが何一つない、だだっ広い空間。
地面も天もすべて白一色…海と空の色が白だったらこんな感じになるのかもしれない。
不気味なまでに白一色だけど、不思議と居心地がいい。
まるで、自分の家に帰って来たような懐かしい感じがする…
そういえばもう十年も…帰るところを持ってなかったな。
行くあてもなく、ただ音楽を奏でて各地を放浪する。
ずっとこんな生活を続けていれば、そりゃあいつか故郷が恋しくなる。
でも僕の場合はそんな感情すら今まで湧いてこなかった。
だから、懐かしいって思うことが新鮮なことに思える。
それにしても…この空間にいるのは僕だけじゃないみたいだ。
所々に人がいる。性別や年齢はまちまちで一定しない。
それに、どの人も顔がよく分からない。輪郭以外はぼやけて見える。
でも、なんとなくわかるのは、どの人も一度会ったことがある。
話したこともあるかもしれないし、ただすれ違っただけかもしれない。
とにかくここにいる人たちは今まで出会ったことがある人たちなんだ。
顔がよく分からないのはきっと……
足が自然に前に進む。
自分でもどこに向かっているか分からないけど、
何も考えずに歩いていけば、きっと目的の場所にたどりつける…そんな気がする。
ここでは全てが曖昧だ。
だから考えるだけ無駄。
それに頭も半分眠っているようなうとうととした感じがある。
果たして僕は起きているのか寝ているのか。
それすらも曖昧なまま、ただまっすぐに歩き続ける。
あれ?
気が付けば周りの風景は一変して、どこかの街の風景になった。
広くも狭くもない通りの両側に二階層の住宅が並んでいて、
何人もの人がその場で日常生活を送っている。
談笑する大人の女性達、荷物を担ぐ大男、走り回る子供たち…
どこにでもある平和な街の光景だ。人々の顔がぼやけて分からないことを除けば…
僕はこの時点でようやく自分がどこに向かっているかを確信した。
やがて、僕は一見の何の変哲もない家の前で歩みを止める。
家の前には一人の男性と一人の女性が並んで立っていた。
男性はやや背が高く、くすんだ黒い髪にインクで汚れた作業着を着ている。
女性は小柄で線が細い体つきで、青い長髪を後ろでまとめている。
やはり二人とも、顔がぼやけててどんな顔かよく分からない
(おかえり、ユング。待ってたわよ)
ただいま…ママ
(はっはっは、ずいぶん帰ってくるのが遅かったな)
遅くなってごめん…パパ
…二人は僕の両親だ。ずっと帰ってくるのを待っててくれたんだろうか?
十数年も待たせちゃうなんてなんて、親不孝もいいところだよ。
(どうしたの?早くお家に入りましょ)
(パパとママにずっと会えなくてさみしかっただろう)
うん…でもね、僕は家には入らないよ。いや、入れないんだ。
(あら?ユング、どうして?)
僕にはね、これから会わなきゃならない人がいるの。
その人に僕は助けられて、ずっと一緒にいるって約束したんだ。
ちょっとバカでお調子者だけど、僕のことを一番理解してくれる…そんな人。
(…………)
分かってる…ここで家に戻らなかったら、パパとママにはもう二度と会えないって。
それでも僕は、今度こそ前を向いて生きて行こうと思うんだ。
今までずっと何も見ないで、何も感じずに生きてきたから…
今まで出会った人の顔を全然覚えてないんだ。悲しいことだよね。
(そう……大人になったのね、ユング)
大人に…なった?
(ユングはもう自分の生き方を自分で決められるんだ。立派な大人だ)
(ええ、それに素敵な人もできたみたいだしね)
うん、僕はもう一人じゃない。もう寂しくなんてないよ。
だから……僕はもう行くね。
(ふふっ、じゃあもうママとパパとはお別れね)
(やっぱり寂しくなったとか言って泣くなよ)
ありがとう…ママ、パパ。
そして、行ってきます。
僕はその場で身体を反転すると、来た道を戻っていく。
――――――――――《Side Viorate》――――――――――
サンダリヨン中央教会を後にした私は、ノワちゃんの力を借りて自分の部屋に戻ってきた。
ずいぶん久しぶりな気もしたけど、考えてみればまだ一週間程度しか経ってなかった。
それくらい一日一日が長く感じたんでしょうね。
ユング君はまだ目が覚めないみたい。
私のベットに寝かせて、布団で覆ってあげる。
覚醒魔法で起こしてあげることもできるんだけど、そんな興ざめなことはしない。
起きるまでずっと添い寝してあげるから、可愛い寝顔を拝見させてもらおう。
例え女の子でも男の子でも、子供
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