中央教会を後にしたエルとユリアは
中央教会があるエリス城下町を観光することもせず
足早に帰還途中のエル軍に合流した。
ちょうどエル軍は山岳を越える前の小休止に入っていたところだった。
「マティルダ、今帰った。」
「ただ今戻りました。」
「あ!おかえりなさいませエル様!それにユリア様も!
ずいぶん早かったですね。」
帰還したエルとユリアをマティルダが迎える。
「てっきりエリスを観光してから帰ってくると思ってました。」
「エリスは過去に何度も行ったことがあるから、
特に観光する気分にはならなかったな。
それよりも半年の間ともに戦ってきた
マティルダや兵士たちと本国に凱旋したいから
こうして一日で軍に戻ってきたわけだ。」
「きゃーエル様!嬉しいこと言ってくれますね!」
マティルダはただでさえ全身真っ赤なのに顔まで赤くして
喜色満面の表情を浮かべる。
「さ、そろそろ軍を発進させろ。
あまり休みすぎるとあとでかえってつらいぞ。」
「了解しました!」
マティルダはいそいそと進軍旗を掲げ、
軍楽隊が休憩終了の合図を鳴らす。
すると数秒もしないうちに一番前の軍から
徐々に隊列を整えて進軍していく。
その一糸乱れぬ行軍はエル軍がいかに
厳しい訓練を積んできたのかがうかがえる。
エルは、さらにもう一つ合図を行う。
すると、エル軍は行軍陣形を徐々に細長くしていった。
これから山越えをするにあたって、
幅の狭い陣形にすることにより
スムーズに行軍できるようにするためであった。
かつてのこの地域なら、山に山賊や魔物が横行し
ある程度の警戒陣形で進むことを余儀なくされたが
今ではその危険もほぼなくなったため
行軍に特化した陣形を取れるのだ。
こうしてエル軍は何事もなく国境の山岳を超え
同盟国の領土を通り抜け、
一路本国の首都…ロンドネルを目指す。
レーメイアを出発してから一週間。
半年にわたる遠征を終えたエル軍は
首都ロンドネルに帰還を果たした。
大通りを凱旋する兵士たちに
沿道に詰めかけた市民たちが喝采を送る。
2・3年は帰ってこれないと思われた大遠征を
わずかな損害で戻ってきたのである。
市民たち、特に兵士の家族の喜びは
とても大きいものであった。
「みなさん、とても嬉しそうな顔をしていますね。」
エルの後ろをついていくユリアがマティルダにそう話す。
「ええ、私も幼少のころは軍人だった父が帰ってくるのが
何よりもうれしくて、凱旋の時には真っ先に家を飛び出して
この大通りに父を迎えに来てましたから
ここに集まった市民の気持ちはよくわかります。」
「それに、ここにいる彼らの笑顔を見ていると
私も頑張ってよかったと心の底から思います。」
「あ、ユリア様もそう思いますか!
この凱旋の時の彼らの笑顔が、つらい訓練の日々の中でも
私たち軍人に活力を与えてくれるんです。」
「ふふふ…、私もそろそろ軍人エンジェル
って言われちゃいますかね?」
「それはまたすごい称号ですね…」
幸せを届けるはずのエンジェルが人殺し専門家になるというのはかなりの皮肉である。
「でも、ユリア様は戦っている私たちを惜しみなく援護してくれますし、
傷ついた人は敵味方を問わず癒しの手を差し伸べておられます。
私たちからしてみれば、エンジェルどころか神様みたいな存在です。
けっして軍人になってきたとは思っていませんよ。」
「いえいえ、むしろ私が出来るのはそれくらいですから。」
二人はとめどない会話を交わしながら、城に入っていく。
凱旋を終えた兵士は、城の大広場に整列した。
最後に領主からの労いをもらうためである。
壇上に上がった領主の男性は、年齢が30代を半ば過ぎたとみられる
青銅色の髪に無精髭を生やし、それでいてどこか隙のない風格を持っていた。
「勇敢なる兵士諸君よ、半年にわたる大遠征ご苦労だった。
諸君の活躍は後方の我々も良く聞き及んでいる次第だ。
その功績をねぎらい、私から盛大なる讃辞を…
と、言いたいところだが、こんなおっさんの顔よりも
早く帰って家族の顔を見たいだろう。」
領主の冗談に、所々からクスクスと笑い声が漏れる。
「よって以上にて遠征軍は解散とする!
今日は早目に家に帰ってゆっくり休むむもよし、
家族や友人に武勇伝を話すもよし、
これから三日間は非常事態が起きない限りは休暇だ!」
そう言い終わると、兵士たちは一斉に喝采を上げた。
いそいそと支給された装備品を兵舎に返す兵士たち。
「やれやれ、ようやく肩の荷が下りたな。」
そう呟くエルのもとに、マティルダをはじめとする
エルの直属軍が詰めかけた。
ユリアの姿も見える。
「ん?どうしたお前たち。もう連絡事項もないぞ。」
怪訝な顔をするエルに対して…
「みんな!エル様を胴上
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