―ユニコーン―
額に伸びる一本の角と白く美しい毛並みが特徴のケンタウルス種の魔物。
魔物ながらも『純潔』『貞操』『柔和』の象徴とされ、性格は温厚で献身的。
さらに彼女たちが夫として選ぶ男性は一度も性交を経験してない者に限られ、
生涯ただ一人の夫に尽くし続けるという変わった性質もある。
これは彼女たちが独特の魔力素を持っているため、
別の魔力が混ざって変質するのを防ぐためだとされている。
なので、魔界ではあまり好まず、もっぱら自然が豊かな地に生息する。
(なお、魔力の影響を受けたユニコーンがどうなるかについては、
後日改訂される予定の魔物図鑑を参照されたし。)
そんなユニコーンであるが、現魔王陛下が即位される前の時代…
即ち魔物が『魔物娘』になる前の時代ではどのような生態だったのだろう?
元々ユニコーンは性格が大きく変わった以外は特に個体としての変化はなく、
ユニコーンの特徴的な能力である角の魔力による強大な治癒力をはじめ、
自然豊かな森林に群れを作らず常に一匹で生活していたようだ。
しかしながら、先ほど述べたように性格は大きく異なる。
今でこそユニコーンは人間に対して非常に好意的で、
どの生物に対しても敵対的な意志を持つことは殆どないが、
元々ユニコーンは非常にプライドが高く、むしろ人間どころか
同じ魔物相手にすら明確な敵意を持っていたと言われている。
ケンタウロス特有の機動力に加え、額の角は鋭く、戦闘にも向いていた。
ユニコーンの不興を買った生物は貫けない物はないと言われる角の一撃で貫かれ、
無尽蔵とも言える治癒力は瀕死の重傷を負った時にも戦闘続行を可能にした。
このように、前時代のユニコーンは人間にとって危険な魔物であったといえる。
(もっとも、危険ではない魔物を探す方が難しい)
前述の通り前時代のユニコーンはプライドが非常に高く、
特に人間に対しては出会った瞬間から問答無用で敵視してきた。
伝承によれば、人の力では殺すことは出来ても、
生け捕りにすることは出来なかったという。たとえ生きたまま捕らえられたとしても、
絶対に飼い馴らすことは出来ず、激しい逆上の中、自殺してしまうという。
今からしてみれば考えられないかもしれないが、ちょっと考えてほしい。
仮に今あなたが屋根裏部屋に住むような薄汚いネズミに襲われて、
抵抗むなしくネズミの群れに倒されてしまい、家畜とされると想定するなら…
当時のユニコーンにしてみれば人間など下等生物でしかなかったのだ。
ただ、唯一処女の女性だけには心を許したともいわれるので、
現在のユニコーンの性格はそこから発展したのかもしれない。
さて、読者諸君はユニコーンの夫婦を見かけたことはあるだろうか?
見たことがある者なら分かるはずだ、あの忌々しいまでのいちゃつきぶり。
その時彼らは、ユニコーンの背に夫を乗せて歩くことも珍しくない。
まあそもそもケンタウルスはかなりの恥ずかしがり屋なので
恋人を背中に乗せることすら躊躇う者も多い中、ユニコーン夫妻は
むしろ当たり前のように騎乗していたりするので、印象に残りやすいはずだ。
だが、前時代のユニコーンでは性格上それはほぼ不可能。
決してなつかないと言われるくらいであるから当然だ。
ところが、前時代にもユニコーンを手懐けた人がいたらしい。
そのような例は極めてまれであり、信憑性に欠けることが多いが、
興味深いのはそのうちの一つに丁度、魔王交代の時期に
活躍した人物の記録があることだ。
では前書きはここまでにして本題に入るとしよう。
昔々、アルトリアという国のオルトヴァ地方にシオリアという男がいた。
くすんだ銀髪に人懐っこそうな顔が特徴、背は平均程度だった。
明るく気さくな青年で、また若干天然ボケ気味だとも言われている。
彼はウェリトラエという辺境の町で生まれ育ち、
幼い弟妹の面倒を見ながら伝馬(馬を使った郵便配達)の仕事をしていた。
貧しいながらも平和で穏やかな日々を過ごしていた彼は、
元々は戦いとは無縁の人生を送るはずだった。
だが、その平穏な生活は突如破られる。
紀元前4年…つまり現魔王陛下が即位なさる4年ほど前。
アルトリア王国に魔物の大軍が侵攻。その数は50万とも100万ともいわれる。
さらに人間の中にも『蒼褪めたヴェール』という破滅思考を持った者達が
魔物と結託したため、アルトリア王国の善戦空しく首都は陥落。
国土の3割は魔界となり、残る大半の地域も蒼褪めたヴェールが支配し、
アルトリアは急速な勢いで荒廃していったのだった。
シオリアの故郷ウェリトラエにも頻繁に魔物が襲来するようになり、
度重なる戦闘で兵が摩耗、ついには民兵まで駆り出されることになる。
彼もまた民兵として徴兵され無理やり戦場に出されることになった。
シオリ
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