水上要塞カナウスでは、カナウス軍と十字軍が
真っ向から睨み合いながらも、特に動きもない日々が続いている。
要塞内の住民も戦時中にもかかわらず緊張感に慣れ、
普段通り釣りをしたり、井戸端会議に花を咲かせたり、
海水浴をしたり、睦あったり、交わったり、子作りしたり、
すっかり日常生活を取り戻していた。
そして、サンメルテの人々と共に要塞に逃れてきたベルカ傭兵団もまた、
直接戦闘のない日々が続いていささか暇を持て余している。
「あ゙ーー〜〜〜…ゔーーー〜〜〜〜〜………あちい…」
屈強なオーガの戦士であるベルカも、
赤道付近の熱帯気候をもろにうけて石畳の上に寝転がっている。
昨夜は暇だからと言って朝まで海賊たちと浴びるように酒を飲み、
ついでに何人かと乱交していたせいで、やや腰が痛い。
それでも何か大事があれば急いで飛び起きて、
一瞬でやる気を取り戻すかもしれないのだが、
時には怠けることも必要なのかもしれない。
常に緊張していたら、いざという時に力が出ないこともあるのだから。
「あ、隊長、ここにいたんですね。」
「ん〜〜何か用か?」
彼女が怠けているところに、傭兵団副隊長を務めるアマゾネスが来た。
「あのですね、一週間ほどお暇をいただきたいと思いまして。」
「んっ…別にかまわん。奴らは当分攻めてくる気がないみたいだし。
けどたった一週間休暇を使って何するんだ?」
「実はですねー、ここから少し離れたところに私の故郷があるんですよ。
せっかくなので故郷の人たちに顔を見せに行こうと。」
「なんだ、お前の故郷がこの近くにあるのか。知らなかった。」
「私も故郷の話はほとんどしませんでしたからねえ。
そんな訳で私は十数年ぶりに故郷に顔を出してきますので。」
「ほいよ。よかったら一週間だけじゃなくて二、三週間行っててもいいんだぞ。」
「いえいえ、仮にも今は戦争中ですから長い間部隊を離れるわけにはいきませんよ。
では行ってきます!なんでしたらお土産も持ってきます!」
「おう!気をつけて行って来い!土産はなるべく酒で!」
「はーい!」
軽くやり取りを済ませた後、副隊長はベルカの元を後にした。
彼女が言っていたように数十年ぶりの帰郷で、その足取りも軽い。
「故郷…か。」
帰る地を持たないベルカには、その後ろ姿が少しうらやましく思えた。
さて、一方の十字軍陣地では……
ガキンッ! キンッ! カァン!
「はっ!やぁぁっ!」「えぇいっ!」
司令部がある建物の裏手に少し広くなっている場所があり、
そこでは軍団最年少コンビのレミィとサンが、エル相手に訓練をしていた。
エルはまだ若いとはいえ全力を出している二人同時に相手しながら、
なおかつ炎天下にもかかわらず表情に疲労の色はみられず、汗一つ掻いていない。
対するレミィとサンは日焼けした顔を真っ赤にしながら、
汗だくになりつつそれぞれの得物で打ちかかっている。
ガキン!カン!キーン!カン!カキーン!
「サン!足運びが遅くなっている!隙が出てきたぞ!」
「は、はいっ!!」
「レミィ!攻撃が単調だ!そんなことでは敵にダメージを与えられん!」
「はいぃっ!!」
「自分が苦しい時は敵も苦しいとは限らない!弱った素振りを見せるな!」
『応っ!!』
「そうだ!いいぞ!その調子だ!」
エル特有の女性声が怒号となって彼女たちに降り注ぐ。
これがご褒美だとのたまう兵士たちもいるようだが、
今の彼女たちにはそのようなことを感じている余裕は微塵もない。
レミィの剣、デスブラッドが紅色の刀身をうならせて縦に横にと斬りかかり、
サンの槍、スレンドスピアが銀の穂先を輝かせながら果敢に突きを放つ。
また、親友同士であるがゆえにチームワークも抜群に冴える。
エルも鍛え甲斐があると思っているのか、指導に熱が入っている。
「よーし、次はこちらからも仕掛ける!攻撃が当たったら自分は即死だと思え!」
『お……ぉぅ…』
「さっきまでの威勢はどうした!声が小さくなっているのは、身体が弱っている証拠だ!」
『はいっ!!』
「いいか!目の前には天下一品のケーキがある!しかしそのケーキは勝った奴しか食べられない!
俺は今まさにそのケーキを食べようとしている!お前らが食べたかったら俺を打ち倒せ!
勝って絶品のケーキを幸せそうに頬張るか、負けてボロボロになって地面に這いつくばるか!
全てはお前らの戦い方次第だ!やる気出たか!根性見せろ!」
『はいっ!!!!!』
その光景はまさに狂気だった。
青銅の棒で攻撃してくるエルに怯まず果敢に攻撃する二人。
だが、炎天下の中長時間激しい動きを続けていた二人は、
次第に限界が見え始め、今や気力のみで身体を動かしている状態だ。
「サン
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