届けこの想い 煙突から冬空のかなたに

頃は12の月、冬至を過ぎ年の瀬が迫る24の日の夜。
粉雪舞い散る街の一角に、サバトと言う魔女の集まりがあります。

レンガ造りのやや大きな二階建ての建物。
その一角にある部屋で、ちょっと可愛いたくらみが進行していました。
よい子はもう寝る時間だというのに、三人の女の子…
いえ、三人の魔女が部屋に明かりも灯さず、僅かなランタンの明かりで
なにやらこそこそと作業しているではありませんか。


「ウルちゃ〜ん、煙突終わった〜」
「おっけーフーちゃん!わたしもあと少しで終わるわ!」
「うん、いいにおいなのですよ。これなら大丈夫なのですよー」


暗く寒い中、パジャマ姿で作業する三人はつらそうには見えず、
寧ろ楽しんでいる余裕すら見える。なぜなら…


「かっんせ〜い!じゅんびかんりょ〜!」
「後はサンタさんが来るのを待つだけね」
「楽しみなのですよー」


……恐ろしいことに、三人の魔女はサンタを捕獲する気らしいのだ。

12の月25日目はクリスマス。人と魔物娘がいつも以上にいちゃつく
…もとい愛し合う日であり、
さらにその前日である24の日は次の日のために英気を養う日であると同時に、
まだ純粋無垢な子供たちのために、夜になるとサンタさんがプレゼントを持ってきてくれます。
ただし、サンタさんが暮れるプレゼントには一定のランダム性があり、
さらに姿が見えないうちにプレゼントを置いて去ってしまうという徹底した隠密性、
いい子にしていないと出現条件を満たさないというベリーケアフルなイベントなのです。

三人の魔女たちはどうしても欲しいプレゼントがあります。
しかしながら、そのプレゼントはやや難しい物らしく、
どうしてもサンタさんに直接お願いしたいらしいのです。
そこで…


「じゃ、最後にもう一回手順を確認しよっか」
「えっと、まずはエルちゃんが作ったこの『おいしそうな匂いがするお香』で
サンタさんをここの煙突に引き寄せて……」
「自信作なのですよー」
「うん、い〜におい!クリスマスチキンの匂いだ〜!」
「サンタさんが思わず煙突を覗き込んだら、
ウルちゃんの罠が発動!サンタさんは煙突に吸い込まれちゃいます!」
「威力は実証済みっ!」
「そのまま落ちちゃ危ないから、下に敷いたゴムクッションで
ボヨヨ〜ン!ってかんじで暖炉から出てくる!そして最後に!」
「この魔法陣で捕まえちゃうのですよー!」
「捕まえたらあの手この手を使って……」
「プレゼントをおねだりしちゃうのですよー」
「まさに完璧っ☆」


罠の完成によろこぶ三人でしたが、
他の子はもう寝ていることを思い出してすぐに静かにしました。


「あ、もうこんな時間!」
「この布団で寝た振りをして待ち伏せするのですよー」
「上手くいくかたのしみ〜」

三人でもぞもぞと布団の中に身を隠します。
あまり意味無いような気もしますが、この方が暖かいのです。


「ところでエルちゃん、プレゼントは何が欲しいの?」
「ふふふ…ナイショなのですよー。ウルちゃんは?」
「うーん、私も内緒〜♪」
「教えてくれたっていいのにー!じゃあ私も内緒ね!」















クリスマスイブからクリスマス当日へと日付が変わる頃、
世界各地でサンタさんたちは活動を開始します。


ザッ

「んっと、次は…ここかな?」

サバトのある大きな建物の屋根にサンタさんが来ました。
赤い布地に白の縁取りといかにもな格好で、くすんだ蒼色髪の若い男性のサンタさんです。


サンタさんと言えば、普通は立派な白ひげを蓄えた恰幅のいい老人を
思い浮かべるかもしれませんが、サンタさんが老人だけだったのは昔の話。
かつては威厳バリバリの職人気質なサンタ長さんがサンタさんたち率いていて、
50年以上の厳しい修業を積んだ男性しかサンタさんになることができませんでした。
少数精鋭主義でしたので、必然的にプレゼントを配ることができる家庭も少なくなり、
特別なよい子にしかプレゼントがいきわたらなかったそうです。

ところがある年、サンタさんの村がリリム率いるサキュバスに侵攻されてしまい、
サンタさんたちは魔族たちの支配下に入ることになってしまいました。
リリムの指示でそれまでのサンタさんたちの方針を改革した結果、
サンタさんは男女どころか人魔問わず大量採用され、
どの子どもにも平等にプレゼントがいきわたるようになったとか。


そしてこの若い男性のサンタさん、プロのサンタさんではなく
普段は自身が唯一使える転移魔法を使って郵便配達をしています。
ついでに、年明けにはジパングで年賀状配達もする予定だそうです。


「玄関は閉まってるっぽいし、窓もやめた方がいいみたい。
ま、オードソックスに煙突から入って………ん?
なんかいい匂いがする…クリスマス
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