U:陽と陰と【Double persona】 1章

「えっと、どうしたの?」
「!!」


ここは見慣れた城下町の繁華街からちょっと奥に入った路地。
治安は悪くはないが、特に店があるわけでもないこの人気のない場所に、
町ではあまり見かけないような服を着た一人の小さな女の子がいた。
やや明るい茶色の繊細な髪の毛に、人形のようなくりっとしたかわいい顔。
一目見ただけでも、彼女がそこらの町娘でないことは明らかだった。


「べっ、べつにわたしはあやしいものじゃないわ!」
「べつにあやしいっておもったわけじゃないけど…
ただ、みないかおだな〜っておもったし、なんかキョロキョロしてるから
もしかしてしらないまちにきてまいごになったのかなって。」
「(ぎくっ!?)」

どうやら迷ったらしい。
しかし女の子はわたわたと手を上下に振りながら、
真っ赤な顔で必死になって弁明する。

「ち、ちちち、ちがうの!わたしはこのまちにすんでるの!
で、ででで、でも!わたしあんまりそとでたことなかったから!
ちょっとまわりがめずらしくてついキョロキョロしちゃっただけよ!」
「そ…そう………」

女の子のあまりの必死な姿に思わず気圧されたが、
そんなあわてた姿もなかなかかわいらしかった。
どうやらこの子はどこかの貴族かお金持ちの娘なのだろう。
きっと今まで箱入りで育てられ、あまり外に出たことがないのかもしれない。
それなら納得がいく。

だったらどこから来たか聞いて、送ってあげるのが正解だろう。
でも、もしかしたら……

「でも、この辺はあまり見てて楽しいものないよ。」
「…ぅ。」
「ねぇ、せっかく外に出たんだ。もしよければぼくがみちあんないしようか?」
「…!!いいの!?」
「ぼくもきょうはこれといってやることはないから。
たのしいところをいっぱいみせてあげるよ。」
「わぁい!やったー!じゃ、よろしくね!」


…こんな簡単にほいほいついてきちゃっていいんだろうか?
いつか身代目的で誘拐されちゃうかもしれない。
けどまあ、それはおいといて。
この箱入り女の子にどこを案内してあげようか…と、一瞬考えると


「どこか行きたいところ…っていってもわかんないか。
そうだ!じゃあまずあのおおきなおしろから…」
「らめえぇぇぇっ!!」
「え!?」
「おしろはだめ!おしろはだめなのぉ!」
「え、えええ?」

まず真っ先に思い浮かんだのがこの町にあるとても立派なお城。
近くで見せてあげたらきっと喜ぶだろうと思っていたのに、
なぜかいきなり大声で徹底拒否されてしまった。
顔を見れば先ほどのかわいい笑顔がかなり怯えた表情になり、
目じりには涙すら浮かんでいる。

「なんで?おしろ、おっきくてりっぱですごいんだよ?」
「やだっ!あそこにいったらつれもどさ……じゃなくて
おしろにいったらころされちゃうからいっちゃだめだって
おとうさんとおかあさんにいわれたの!」
「そ、そんなことないって!へんなことしなきゃだいじょうぶだよ!」
「でもやだっ!ぜったいいきたくない!」
「ううん、そこまでいやならしょうがない、ほかのところにしよう。
まずはいっしょにいちばでもみていこうか。みてるだけでもたのしいよ。」
「うん!いきましょいきましょ!」

またしても表情を一転させて、かわいい笑顔を見せる女の子。
このこと一緒なら、いつも見ているこの町が
もっと楽しく見えるかもしれない。
はぐれないように手と手をしっかり握って、二人は走り出した。

「そうだ、きみのなまえは?」
「え!?なまえ?」
「うん、なまえ。」
「なまえ………うぅんと…」
「?」
「そう!クリス!わたしクリスっていうの!」
「クリスかぁ。けっこうふつうのなまえだね。」
「そ、そう…よかった…」
「?」
「あ…いや、そのっ!あ、あなたこそおなまえは?」
「ぼく?ぼくのことはクルトってよんでくれればいいよ。」
「わかったわ!じゃクルト、みちあんないよろしく!」
「あっはっは、いきなりよびすてなんだね。
こっちこそよろしく、クリス。」


その後、クリスと一緒にいろんな場所を回った。
どうやらクリスにとって本当に初めてのところばかりらしく、
好奇心の赴くままにあっちこっち走り回る。

各地から大勢の人が集う中央市場で、見たこともない品々に目を輝かせ、
噴水広場では、ちょうど来ていた大道芸人のパフォーマンスに興奮し、
町の外の広々とした平原にとても驚いていた。

でも、楽しい時間は得てして早く過ぎ去ってしまうもの。
一緒にはしゃいで走り回っているうちに、次第に日は暮れ
空は夕焼け色に染まっていった。


「あは〜、さすがにつかれたわ。」
「ぼくも、いちにちじゅうはしってたからつかれちゃった。」

街の真ん中にある噴水広場の石造りのベンチに腰かけて、
お互いに満喫した楽しい時間の余韻に浸っ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..8]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33