じゃあ次の話に入る前に、またちょっと難しい話をしよう。
つまらなそうだと思ったら僕の話を飛ばすのも自由だ。
聞かなくても別に話は楽しめるしね。
飛ばす人は、一段と広くなってる改行空白を目印にしてほしい。
さて、君たちは『プロパガンダ』って知ってるかな?
「自分たちは正しい!んでもって敵は悪いやつだ!」っていうのを
あらゆる手段を使って宣伝することだね。
国とか大きな組織とかが、自分たちの正当性を主張して
支持する人を増やすときにはやっぱり宣伝が一番
効果的でなおかつお手軽なんだ。
いくら自分たちは正しいと思っても、
周りがそう思ってくれないと何の意味もないからね。
そして、その手段は実に多種多様だ。
演説やポスターなんかはもちろん、文明が発達すれば
テレビやラジオ、そして映画なんかも積極的に使われる。
その気になれば四六時中プロパガンダが流されるなんてことも……
ま、中世に生きる僕たちには結構手段は限られるけどね。
じゃあテレビやラジオがない時代のプロパガンダって何だろうか。
まず代表的なのは『建物』だ。
みんなもよく知ってる世界遺産……ピラミッドや古墳、
巨像、コロッセオ、豪華な宮殿、塔、お寺や教会、ect…
これらはみんな立派なプロパガンダ。そこにあるだけで効果絶大だ。
立てた人が如何に力が強かったかがよくわかるからね。
「魔王城」なんかも存在自体が魔物にとってのプロパガンダだね。
次に『英雄』。
中世は今みたいに「一人ひとりがオンリーワン」じゃないから、
カリスマ的存在はそれだけで歩く広告になれるんだ。
これはみんな納得できるんじゃないかな。
戦場で一騎当千の活躍をする国士無双の人物がいる国の軍隊は、
とにかく強いのは、実はその人の強さのおかげというよりも
兵士みんなのやる気が自然に出るからなんだ。
魔物にも同じことが言えるね。
たとえ魔女が10000人集まって攻撃してくるよりも
一匹のバフォメットが率いる100人のサバトの方が断然強いし、
魔物の群れをリリムが率いてたらそれだけで勝ちは確定だね。
『歌』だってそうだ。
リズムは生物の精神に直接影響を及ぼすからね。
太鼓の打音は活力を湧かし、笛の音色は心をリフレッシュさせる。
そして人間の耳は幸か不幸か、ポジティブな単語を聞くと
それだけでいい気分になれるんだ。
だから吟遊詩人が語る戦いのお話は、実は死人が出る残酷なお話でも
聞いてて楽しいし、心に残ればそれは憧れに変わるんだ。
あと、セイレーンが歌う魔歌が強力だって言われるのは、
防ぐのが難しいからなんだろうね。
そして忘れちゃいけないのが『本』だね。
中世は本が貴重……と、言うよりも紙自体が貴重品だ。
まあ、僕たちが生きてるいわゆるファンタジー世界には、
なぜか製紙技術があるから、紙自体は安物かもしれないけど
ぶっちゃけ印刷技術がないんだよね。だから全部手書きさ。
いくらファンタジーだから識字率100%あたりまえの世界でも、
本の数自体が少なければ、当然価値は跳ね上がるね。
だって読みたくても読めないんだもん。
だから本をたくさん持ってるのは国家とかお金持ちだけ。
あとはよくてせいぜい2,3冊か、日記くらいかな。
本は貴重品。
だから、みんな本に書いてあることは真実だって思い込んでしまう。
本に書いてあることが嘘かどうかなんて疑わないんだ。
本に自分たちは強い正義の味方だって書いちゃえば
たいていそれは真実になる。
少しの嘘や誇張なんて気にならないくらい……
さて、ここからがいよいよ本題だ。
前回、ハッピーエンドは時として
権力者の都合で話が書き換えられてしまうって話をしたよね。
つまり、お姫様物語も立派なプロパガンダなんだ。
あーあ…また夢のないことを……。みんなごめんね。
でもこれは事実。純粋な子供に読み聞かせる童話も
プロパガンダの魔の手からは逃れることはできなかったんだ。
いや、むしろ童話自体、半分はプロパガンダを目的として
つくられたものだったりするんだ。
みんなが大嫌いな『教団』はプロパガンダの性質をよく理解してる。
彼らは魔物を倒すために、宣伝も駆使しているんだ。
あるときは戦死した英雄を美化したり、
またあるときは美少年の聖歌隊を結成して賛美歌を歌わせたり、
ところによっては無理やり勇者を作り出すなんてこともしてるよね。
さて、教団の宣伝には次のような法則がある。
1.われわれは平穏な生活を望んでいる。
2.しかし敵側(魔物や異教徒)が一方的にわれわれの破滅を望んだ。
3.敵の指導者(魔王)は悪魔のような奴だ(っていうか悪魔そのものだ)。
4.われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な大儀・使命のために戦う。
5.そしてこの大義は神聖に
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