海賊国家、イル・カナウス……
その歴史は魔物が魔物娘となるはるか以前…というよりも
ラファエル海周辺に人類が文明を築き始めた頃から
カナウス要塞のあるカナウス島は海賊の拠点となっていた。
最盛期にはラファエル海には大小20以上もの海賊団が跋扈しており、
海の魔物と共に海上交通の妨げとなっていた。
当然他の海賊団や旧アルトリア王国の討伐隊、そして海の魔物とも戦うため
彼らは海を知り尽くした者であると同時に屈強な戦士でもあった。
一説によると、彼らはもともと漁業を営む民族であったが、
旧アルトリア王国やまだ未開の民であったユリス人たちと抗争しているうちに、
彼らの文化的な交易品を奪取することを目的とする軍団に発達したとも考えられる。
現に彼らは主神を信仰していた旧アルトリア王国と戦闘の神を信仰していた
ユリス人との間にポセイドン信仰という文明的な隔たりもあったのかもしれない。
しかしながら、ここ数十年で海賊たちは大きく衰退した。
そもそも彼らの活発さが災いしてラファエル海には滅多に交易船が現れなくなり、
現れるのは海賊討伐を目的とした軍船ばかり。さらに、海の魔物が魔物娘となったため
海賊団は次から次へと海の住人となってしまったのである。
その中でもこのイル・カナウスは早くから人間と海の魔物が共存できる環境を作り、
結果として人間の文明を維持しつつも、親魔物国として
ラファエル海の制海権を一手に握っているのである。
もちろんハルモニアやユリス諸国が何度となく討伐に赴いてはいるが、
難攻不落の水上要塞には、なす術がなかったのだ。
さて、現在カナウス要塞では侵略してきた十字軍に対して臨戦態勢が取られ、
屈強な海賊たちが彼らの攻撃を今か今かと待ち構えていた。
そんな緊張した雰囲気の中、要塞の中央にある司令部に
イル・カナウスの首領であるアロンと、サンメルテから脱出してきたフランの姿があった。
あと少しで皆殺しにされそうだったところをアロン率いるカナウス海軍に助けられ、
今は脱出してきた市民や兵士たちと共に要塞内でカナウスの住人たちと暮らしている。
カナウス要塞はそこそこ大きな島に作られてるとは言え、
スペースに限りがあるため居住区域は大分狭かった。
それでも不便ではないし、食料や水の蓄えもたっぷりある。
さらに敵の海軍が来なければ、海からは魚や塩が取れるし、
いざとなったら船で逃げることもできる。
中には海の中で生活を営んでいる住人も少なくないという。
「危ないところをありがとうございました…。何とお礼を言っていいのやら。」
「なーに、気にすんなって!当然のことをしたまでだ!」
身長2m近い巨漢であるアロンは話す時もまた豪快だ。
「当分の間こんな狭いとこで不便かもしんねーが、我慢してくれ。」
「いいえ、むしろここは今のところ世界一安全な場所よ。
しっかし久々にここに来たけど、相変わらずすごい堅固な作りよね。」
「おう!そりゃ先代の知恵と工夫の結晶だからな!
今回の相手はちっとばかし数は多いが…ま、なんとかなるだろ!」
アロンを始めとしたいるカナウスの頭目たちはお世辞にも、
戦略や戦術に明るいとは言いにくいが、そもそも要塞に籠ればそれも関係ない。
それに敵が水上戦を挑んできても絶対的な海上戦経験ならどこにも負けないだろう。
そんなこんなで二人が会話していると、一人の女性が
飲み物を乗せたトレーを持って入ってきた。
「どうぞフランさん、お茶が入りましたよ♪」
「あ、これはどうも!」
その女性は顔や腰の脇にヒレのような部位がある。
彼女はマーメイドのリューシエ。アロンの妻だ。
マーメイドらしくとても穏やかな性格で、常に笑顔を崩さない。
ただ、巨体のアロンと並ぶとだれもが「性交の時大丈夫なのか?」と思ってしまうほど
体格の差が顕著になっている。だがこれでも彼女は二児の母なのだ。
「当分の間このような狭いところで不便かもしれませんが、ご了承くださいね。」
「う…うん。アロンさんにも全く同じこと言われたわ。」
「あらあら、それは重ね重ね失礼しましたわ。」
「はっはっはっは!やっぱ俺らは最高の夫婦だな!」
「くすくす、相変わらず仲がいいんですね。ではお茶をいただきます。」
こんな調子で、要塞内は敵が来たというのに余裕があった。
むしろ余裕がないのは十字軍の方である。
一応陣地の建設は終わったものの、今まで見たこともないような要塞の存在に
ユニースは頭を悩ませていた。
「ねえファーリル。あの要塞の弱点とかは?」
「ないね。今のところ。」
「きっぱり言うわね…このままじゃいつまでも睨み合ってるだけじゃない。」
「仕方ないよ。今まで攻略してきた城とはわけが違うんだから。」
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