レーメイア攻防戦から二週間。
一時期は大幅に減った人口も、新たな移民によって回復し
地域は安定性を取り戻した。
一息ついたエルは本国からの撤収許可が出たため、
本国から出向してきた行政官と交代し
軍をまとめて撤収作業に移っていた。
「エル様、出発準備が整いました。」
マティルダが撤収準備完了を報告する。
「わかった。ようやく国に帰れるな。」
わずか半年の出来事とはいえ、彼や兵士たちも
長い間家を留守にしているのだ。
早く帰って家族に無事な姿を見せてやりたいのが心境だろう。
だがそこに、戦いが終わってすぐ中央教会に戻ったはずのユリアが顔を見せた。
「エルさん、いますか?」
「あれ?ユリア様、教会に戻ったんじゃなかったのですか?」
「ええ、一度教会ににもろもろのことの報告をと。
それと、エルさんに教会の方から召還要請がきています。」
「俺に教会が?まあ、内容は大体検討がつくが今は本国からの帰還命令を優先させてもらう。」
「あ、それに関しては問題ありません。
すでにエルさんの国の領主様から許可はもらってあります。」
「クソッタレ。連中そういう官僚的な所ばかり頭が回りやがる。」
「それに…こう言うのもなんですが、来ていただかないと
迎えに来た私も困ってしまうのですが…」
ユリアはついに反則技を持ちだした!
「わかった…さすがにユリアさんに迷惑がかかるとなれば話は別だ。
どうせ後々行かなければならないなら、早めに片付けておくのも一考だしな。」
「エル様、私もお供いたしましょうか?」
「いや、マティルダには俺の代わりに全軍の指揮を任せる。
あんなところについてきても、得るものは何もあるまい。」
「さっきから思っていますが、エンジェルであるユリア様の前で
そういったことを平気で口走るのはどうかと…」
「いいんですよマティルダさん。私たちはまだまだ未熟です故。」
気にしていないですといった風に手を振るユリア。
「そうとなれば少し遠周りになる。兵士たちは2週間くらいで本国につくだろうが、
俺は中央教会を回らなければならないから、帰るのは一週間くらい遅れるな。」
「エル様と一緒に帰れないのは少々残念ですが…」
「ご心配なく。私が転移魔法で直接教会までエルさんを運びますから。」
「ここから中央教会までの距離を転移するんですか!?
そんなに長距離では疲れますでしょう!」
「いいえ、現に今私は転移魔法でここに来ましたから平気です。」
「それだと余計に心配なのですが…
無理しないでくださいね。」
これも規格外の力を持つユリアだからこそできる芸当なので
良い魔道士は真似してはいけませんよ。
「じゃあ俺は一旦中央教会に行ってくるから、
後は頼んだぞマティルダ。」
「お任せください。」
そうした後、エルとユリアは魔法陣から転移していった。
中央教会。
それは、世界各地に数ヵ所存在する教団勢力の本拠地を指す一般名称。
そこには高位の司教や、数多くの由緒ある聖職者が集まり
各地に点在する一般の教会をまとめる役割をしている。
また、天界から降り立ったエンジェルが最初に降りるのも大半はここであり
使命を帯びたエンジェルはここから各地に散っていくのだ。
この大陸の中央教会はエリスという大都市に存在し
エリスを中心とした地域は教団の直属の領地となっている。
よって、普通の教会とは違い寄付などのほかにも
租税が入るので、圧倒的に裕福で豪華な成り立ちをしている。
もっとも、こういうような利権がからみやすい組織は
得てして腐敗しやすいのだが……
さて、中央教会についたエルを待っていたのは、
銀髪に黄金の鎧を身に付けた一人の教会騎士だった。
「貴公がエルか。遠路はるばる御苦労であった。」
いきなりおもいっきり上から目線である。
「私は教会騎士団長のタウゼント。
今回の聖戦における貴公の活躍はよく聞いている。」
「聖戦ねぇ。」
(自分は開戦初期にぼろ負けしたっていうのに、何が聖戦だ。)
表情にこそ現さないものの、
聖戦だとカッコつけて出陣したくせにちっとも勝てず
最終的にエルの本国に泣きついてきた教会騎士団が
なんで偉そうな態度をしているのだと、
エルは心の中で独り言った。
「ただ、理解しかねるのは、なぜ貴公は魔物と反逆者どもを徹底的に殲滅せず
みすみす大勢逃がしてしまったのかね?
奴らを逃がせば、懲りずにまた我々に襲いかかってくるのだぞ。」
「…我らには我らの考えがあるのだ。口出しはしないでいただきたい。」
「しかしな…、天使様からも何か一言おっしゃってください。
タウゼントはユリアにも話を振る。
「私からは特に何も申すことはありませんが。」
そう言ってにっこりほほ笑むユリアにタウゼントは絶句した。
「ま、まあいい。今は
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