第14章:招かざる客

季節は春の月中旬。
準備期間を終えた十字軍は二手に分かれて行動を開始する。

主力軍120000人はカーター、ファーリル、ユニースに率いられ、
南方のカナウスを目指す。残る40000人はエルと共に一路東へと進む。


エル率いる別行動部隊の目的地はハルモニア王国…

昔はアルトリア王国の一地方行政区に過ぎなかったが、
アルトリア王国が滅亡し、
残された国民は遠くユリスに避難するかハルモニアへと流れついた。
これがハルモニア王国が誕生するきっかけとなった。

しかしながら、アルトリア王国が滅亡したことによりハルモニア地方の秩序も崩壊した。
元々旧アルトリア王国に対し敵対的だった大小さまざまな国家が乱立し、
さらに魔物による新国家建設により、いまやユリス以上の群雄割拠時代となってしまっている。
たび重なる戦乱、繰り返される破壊、略奪や暴行。日々失われる人命は計り知れない。

アルトリア奪還を目指すにあたって、この地方の安定を取り戻すことは
足元を固める上でとても重要な意味を持っている。




なのだが





「ふ…ああぁぁぁ……」
「セルディア将軍。行軍中にあくびとは感心しませんね。
戦場では一瞬の油断が命取りなのですよ。」
「んー、とは言ってもさ、このところずーっと戦いがないから…ついね。」
「上の者は常に下の者の見本となるような態度を心がけるべきです。
セルディア将軍の気の緩みが、兵士に伝わることの無い様。」

(相変わらずお硬い奴だね。半年もこいつと一緒に過ごすのか…たまらんなー)


本隊の師団長であるセルディアと第四軍団副軍団長のフィンは、
現在ほぼ何も障害が見当たらない大平原を続々と行軍中だ。


数日前に、ラファエル海と翠蒼海を繋ぐ細い海峡…ラミアス海峡を渡り
ついに十字軍はハルモニア地方へと入ったところだ。
翠蒼海は我々の世界の「黒海」に似た内海なので、
海峡を渡ったと言ってもまだ同じ大陸内にあることは留意しておいてほしい。

ハルモニア王国まではあと一ヶ月の道程だ。





「何もないわねぇ。」
「……はい。」
「あ〜、正直暇しちゃうわ。」
「…………」
「ねえ、何か面白い話はなくて?」
「ありません。」
「そこまで言いきらなくても(汗」


一方の先頭集団では第二軍団副軍団長のヘンリエッタと
第四師団参軍ブリジットが轡を並べて進む。
暇だからと言って積極的に話しかけるヘンリエッタに対し、そっけない態度のブリジット。

有事の際にはまず彼女たちが敵に当たることになっているが、
こうも何もないとやはり気が緩んでしまうのも仕方がない。

「一昨日まではあんなに積極的にアタックしてきたのに、もうあきらめたのかしら?」


海峡を越えてすぐの時には、ここらに生息する魔物娘たちが
人間兵士の大軍が来ているという話を聞いて、我先にと押し寄せたこともあった。
本来であれば、この地域の国が一度に動員する兵力は多くても1000人程度だったし、
なにより兵士の質もほとんどが5Lv以下とかなりお粗末なものだった。

よって、軍隊という人間の集団は魔物娘たちの格好の餌と言う認識が広まっており、
ハーピー類やスライム類、それにアラクネやおおなめくじ、
場合によってはゴブリンの集団や好戦的なリザードマンの姉妹など
それはそれは多種多様にわたって積極的にエンカウントしてきていた。


ところが、彼女らの思惑に反して40000人の数の暴力の前にはなすすべもなく、
おまけに十字軍は肝心な男性兵士よりも女性兵士の方が多い(その比率は1:3)ため
今ではすっかり委縮してしまい、二日前のジャイアントアントの大軍との戦い以来
めっきり魔物が出現しなくなってしまったのだ。


「すこしかわいそうだったかしら……」
「それよりヘンリエッタ様、エル様から連絡が入っています。
今日は早めに野営するから野営地の確保も早めにせよとのことです。」
「そうね…とはいってもこの辺一帯殆ど野営できる地形だし…。
欲を言うなら水場が欲しいかしら。」


とりあえず斥候や飛竜兵を飛ばして念入りに地形情報を探っているところだ。
そのうち戻ってくるだろう斥候・飛竜兵の知らせを元に決めればいい。
たとえ水場がなかったとしてもこの一帯はほぼ平地なので野営には何の問題もない。




一時間と少し経過し、何体か偵察隊が戻ってきた。


「廃村?」
「はっ、この先の低いを丘を越えたところに無人の村を発見いたしました。」
「ならば野営はそこでいいわね。ブリジット、総司令官に連絡してきて。」
「はいっ。」

ブリジットは連絡のため中陣にいるエルの元に向かう。

「しかし…なぜこのようなところに廃村が…?」
「はっ、見た限りでは建物の損壊がかなり激しく、あたりには死骸が転がっていました。
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