転話:Spiral

きっかけはいつも突然もたらされる。

それは偶然かもしれない。
もしかしたら、必然的なものかもしれない。

偶然と必然が積み重なることで、
本人の意図しないきっかけが突然もたらされる。



例えば、敵から攻撃を受けていないにもかかわらず
火薬庫が爆発し、周囲を巻き込んだ大惨事に発展したと仮定する。


火薬庫が爆発するには、中にある火薬のどれか一つ以上が爆発する必要がある。
火薬が爆発するには、導火線に火がつく必要がある。
導火線に火をつけるには、火種がなければならない。
火種を作るには、火打石などで火口に点火し、そこから火を移さなければならない。
どの要因一つ欠けていたとしても、火薬庫の爆発は起こらない。
しかし、逆に言えばその要因すべてがそろってしまえば、爆発はいつでも起こりうる。

アネット革命もまた、そうした偶然や必然の重なりによるものだったのだろうか。












アネット傭兵団の一人、ドロテアは身体にいくつもの軽傷を負いながらひたすら走っていた。
背後からは、数騎の帝国軍騎兵が追撃してきている。
彼女はローテンブルクから東の親魔物国カンパネルラ領のプラムの街に、
マンドラコラの根を調達しに行っていたのだが、運悪くプラムの街は帝国軍の攻撃を受けていた。
それだけではなく、街道上にて帝国軍に発見されてしまい、逃走せざるを得なかったのだ。

「しつこいな!くらえっ!」

ヒュン!      ドスッ!

「ぎゃっ!?」

追撃してきた騎兵を一体、振り向きざまに放った矢で落馬させる。
今のが最後の鏃だ。これ以上は攻撃できない。

「怯むな!追え!」

しかしながら、帝国軍はあきらめずに追撃してきている。
すでに半数以下になったにもかかわらず、しぶとい連中である。

とうとう彼女は、フェデリカ達のいる森の中まで逃げ込んだ。
下手をすれば傭兵団全員が危機に陥ってしまうだろうが、
自分の命が助かるには、フェデリカとレナータに助けてもらわなければならない。


だが、偶然にも助けは別のところから来た。


「ゴハァっ!?」
「隊長!?いかがいたしまし…って隊長!?隊長の胸に槍が!!」
「誰だ、我々を攻撃してくる奴は!」


「ここにいるわ!」

ドスッ!

「うぐ!」


そこには、いつのまにかアネットがいた。
彼女はパスカルの容体が安定したのを見て、
フェデリカ達に近況報告をしようとこの森に向かっていたところだったのだ。
だが、偶然にも帝国軍に追われるドロテアが見えたので、
身の危険も顧みずに助けに入ったのだ。

「あ、アネット隊長!?」
「ドロテア!あなたは早く逃げて!こいつらは私が相手するから!」
「貴様、魔物を庇うつもりか!そうはさせん!」


帝国軍騎兵たちは次々にアネットに襲いかかるも、
アネットは見事な槍捌きで一掃する。
さらに、戦線を離脱しようとしていた一人にも
背後から槍を投げて斃してしまった。

「よし、これでもう大丈夫。」

あとは、なるべく死体が発見されないように土や草で偽装する。
武器はちょっと失敬しておこう。



こうして、アネットは再び傭兵団の三人と合流した。





「おかえりアネット。幼馴染の様子はどうだ。」
「ええ、一応薬を使ってるから症状は治まってるんだけど、
そのうち薬も聞かないほどに悪化してくるわ。
でも、ドロテアが戻ってきたってことはマンドラコラの根が…」
「申し訳ありません!アネット隊長!」

ドロテアが突然アネットに対して土下座した。

「私が不甲斐ないばかりに…」

そして先ほど帝国騎兵に追われるまでの一連の流れを説明した。


「大丈夫よドロテア。今回は運がなかっただけ。」
「たしかにマンドラコラの根が手に入らなかったのは残念だが、
ドロテアが生きていれば、あたしは十分だと思う。」
「そうです、こうなれば別の方法を模索しましょう。」

アネットと共にフェデリカとレナータがドロテアを慰める。
ドロテアは責任感が非常に強いので、失敗を背負いこみがちなのだ。
特に今回は見ず知らずの相手とはいえ人命がかかっている。
下手すれば「この命と引き換えに」と言いだしかねない。

「ドロテア。あなたはむしろ良くやってくれたわ。
顔も知らない私の親友のためにここまでしてくれてうれしいの。」
「ありがとうございます…。せめて私が直接診察できれば…」



その後、普段通りの会話を交わして、アネットは再びローテンブルクに戻った。
ドロテアにはあんな風に言ったが事態はかなり深刻だ。
パスカルが処方してもらっている薬は根本的な治療にはつながらないばかりか
値段もかなり高く、長引けば傭兵団の財布にも影響が出る。


結局パスカルの家につくまで考え込んでしまった。

「あ!アネットお姉ちゃんおか
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