第10章:迷宮回廊


プラム盆地を攻略し、カンパネルラ地方の大半を手中に収めたエルは、
いよいよ軍を本拠地のカンパネルラ城に進めた。


プラム盆地からカンパネルラまでの日程は3日。
街道上にある村や町の住民はことごとく逃げ出し、
もはや彼らの進軍を止めるものはなかった。





そのカンパネルラ城の城主、リリシアは自室に籠っていた。

ルピナス河の戦いで脱出し、身一つでこの城まで戻ってきたのだが、
側近のグレイシアは敗残兵と共にアネットに退却中であり、
もう一人の側近マーテルは捕虜となった。
大敗北により完全に精神を打ちのめされたリリシアの顔は涙で腫れあがり、
その涙さえ枯れて尽き果て、日々を無気力に過ごしていた。
この様子に部下の兵士たちは必死に励ますも、効果はなかった。

もはや、高貴で気高い彼女の姿はどこにもない。


「リリシア様!人間の軍がもうすぐそこまで迫っています!どうか我々に出撃の許可を!」
「…なりませんわ。」
「ですがっ!籠城していては勝ち目はありません!
ここは野戦で敵の出鼻をくじき…!」
「それができるなら苦労いたしませんわ!
今出撃いたしましても、敵に蹂躙されてより苦境に立つだけですわ。」


その後、久しぶりに自室から出たリリシアは兵士たちに守備につくよう命じた。
主だった将軍がいない今となっては、彼女だけが命綱だった。
カンパネルラ守備部隊20000人は本格的に防衛体制を固め始めた。
市街地には警戒の鐘の音が鳴り響き、市民たちは家に避難する。


「ああ、とうとうこの街にも狂信者の軍団が…」
「愛する夫や子供たちのためにも、私たちは負けられない!」

守備兵たちの間にも緊張が走る。
この外周城壁を突破されたら一般市民を守る盾が失われることを意味する。
なんとしても守り抜かねばならない。






カンパネルラ城前方2キロの地点に陣取った十字軍の司令官幕舎では、
まず副軍団長以上の主要将軍のみを集めて戦略会議を行う。

「では全員、この図を見てくれ。」

エルが広げた羊皮紙には、カンパネルラ城の簡単な地形図が描かれていた。
この日のために事前に偵察兵を潜入させて、見取り図を書かせたのだが、
外周城壁と市街地の配置までしか判明せず、内部構造自体は
人間が立ち入ったことがないので一切が不明であった。

これに対して、早速ユニースが反応する。

「よくこれだけ調べ上げられたわね。上出来だわ。」
「肝心の内部構造は不明ですが、城下を占領できればあるいは…」

フィンもまた同様の意見を示す。

「調査によれば守備兵の数はおよそ20000人。俺たちの4分の1だ。
だが、そのまま攻めれば確実に被害は大きくなる。」
「エル様、でしたら挑発と偽退却を繰り返し、
敵を野戦に引き込むという案はどうでしょうか。」
「そうだな、やはりそれが鉄板だ。これでも釣れないようなら別の方法を考えよう。」

マティルダの案が採用され、十字軍は敵を城外におびき出すことにした。
このことは、全体の作戦会議で各師団に伝えられ、
後に攻撃の準備が行われる。


今回の戦いは未知の領域なので、慎重に準備を行う。
そのため、準備には丸一日をかけた。
そして次の日攻撃準備が整った全軍に対し、エルの演説があった。


「親愛なる兵士諸君!ついに我々はこの地方の本拠地に辿り着いた!
本拠地だけあって、敵の抵抗も激しいものが予測され
城内には複雑な迷宮が広がっているという!
だが、恐れることはない!なぜなら諸君は先日ルピナス河の戦いで
倍以上の軍を相手に大勝した!その強さをこの戦いでも十分に発揮し
一人ひとりがやるべきことを心得ていれば、勝利の女神は必ず微笑む!
この地に再び人間の繁栄を取り戻すべく、戦い抜こう!いいな!」

おーーーーーっ!!


エルの激励は、兵士たちの士気を大きく高めることに成功。
カンパネルラの晴れ渡った空に、90000人の喚声が響き渡った。
ここにカンパネルラ城の戦闘の火ぶたが切って落とされる。



カンパネルラ城を目の前にした十字軍は、
まずは守備兵に対して罵声を浴びせる。


「聞こえるかー能無しども!やるきあんのかー!」
「どうせ俺たちが怖くて立つのもやっとなんだろ!
その気持ち分からなくもないぞー!」
「あなた達が手に持ってるその長いものはナニ?
ただのツェンポ(杖)?それとも自慰の道具かしら?」
「さのばびっち!」
「ふぁっきん!」
「俺のケツを舐めろ!」
「びっち!」
「無職どーてー!」
「…ぷぎゃー。わろすわろす。」




「おのれニンゲンどもめ!調子に乗りやがって!」
「馬鹿にされたままで黙ってなどいられるか!出撃だ!」
「私たちの恐ろしさを思い知らせてあげるわ!」


十字軍の猛烈な罵声を浴びたカンパネルラ軍は
リリシアの
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