承話:Pendulum

もうそろそろ日が暮れようかという時刻に、
貧困層の住居区に数十人からなる帝国兵の部隊がやってきた。



「これより、来る戦の戦費調達のため、臨時徴税を行う!
各人は今すぐ税率通りの税額を納めよ!逆らえば容赦はしない!」


騎乗した部隊長らしき人物がそう宣言すると、
彼の部下の兵士たちが一斉に各家を回り始めた。
兵士たちは完全武装し、鍵がかかっている扉すら破壊して侵入する。


「命令だ!税を納めよ!」
「そんな…、毎期の税ですら厳しいというのに…」
「勘弁して下さい!これ以上はもう…!」
「黙れ!逆らえば容赦しないと言ったはずだ!」

ただでさえ、悪魔すら怯む様な重税を課されているというのに、
これ以上の徴税は貧困層の住民たちにとって死刑宣告に等しかった。
どの家も規定の額を払う能力はなく、ほぼ全財産を巻き上げられ
幼い子供がいる家庭は男女関係なく取り上げられていった。



騒ぎを耳にしたアネットはパスカルの家を出て通りに出る。

「なんてひどい…、これが国を守るべき正規兵のやることなの!?」

目の前に広がる光景を見たアネットは自分の故郷の荒廃ぶりを改めて認識した。
無抵抗な市民を武器で脅し、金を巻き上げる。
今まで自分が討伐してきた盗賊団などと何ら変わりはないではないか。

彼女の心には怒りの炎がともった。

槍を携え、こちらに向かってくる兵士の前に立ちはだかる。


「あなたたち!これ以上無抵抗な市民への蛮行はやめなさい!」
「む、貴様。公務の執行を妨害する気か?」
「なにが公務よ!彼らの生活を踏みにじるのがあなた達の仕事だっていうの?」
「おい、三等兵!何事だ!」
「この女が我々の臨時徴収に抵抗するそうだ!」
「なんだと!我々に逆らうつもりか!」
「ええ、あな達に逆らってでも止めて見せる!」


このやり取りを見て続々と応援に駆け付ける兵士たちに対して、
なおも一歩も引きさがろうとしないアネット。
周囲の住民たちは固唾をのんでこの動きを見ていた。
イリーナとイレーネも気になって家の窓から顔をのぞかせる。

「あ、アネット姉さん…、まさか兵士と…!」
「アネットお姉ちゃん!無理しないで…!」


まさに一触即発の事態。
アネットの力量なら、数十人ほどの弱卒を相手するくらいわけないが、
たとえ勝っても逮捕は免れないだろう。
それでも彼女は、目の前で困っている人たちをほおっておけなかった。


だが、そんな彼女に思わぬ救いの手が差し伸べられた。



「第四中隊のみなさん!今すぐ略奪を中止してください!」



どこからか、凛とした男性の声が聞こえた。

その場にいた人々が声がした方を見ると、そこには黒い馬に騎乗した軍人の青年がいた。
濃い茶髪にまだ幼さが残る童顔な顔立ち。だが、瞳だけはパスカルに似て
くりっと開かれ、深海のように深い青色をしている。声もまだどこかしら子供っぽさが残る。

しかし、着ている軍服はそこらの兵士どころか部隊長より威厳がある
黒一色の布地に、大きく金色の帝国の紋章が入ったものだ。
即ち、彼は帝国親衛隊(インペリアルナイト)と呼ばれる
帝国軍屈指のエリート兵だということが分かる。

彼が連れてきている兵士はわずかに騎兵4騎のみだが、
その威風はここにいる兵士数十人を合わせてもまだ足りない。


「あ、あなた様は…ええっと…」
「帝国親衛隊第一中隊長のリッツです。あなたがこの部隊の責任者で?」
「う、うむ…左様にございます…」
「民の生活を守るべき帝国兵がなぜこのような強盗まがいのことをしているのですか。
今すぐに奪った物を全て民にお返しください。」
「なにをおっしゃいますかリッツ様!強盗とは心外な!
私たちはただ上層部からの指令を受けて正当な公務をしているのです!」
「だからと言ってこのような真似はいけないよ!」


突然の乱入者に驚いたのは帝国軍だけではない。
アネットもまた、槍を構えたまま動けないでいた。

(え、何々?味方なの?いえ、それよりどうしてこんなところに帝国親衛隊が?)

帝国親衛隊と言えば貴族階級を持つ者のみが所属を許される高貴な精鋭集団。
彼女も存在だけは知っていたが、この目で見たのは初めてだ。
しかし、彼…リッツは帝国親衛隊という肩書以外はどことなく頼りなさそうというか…
いまいち部隊長を説得しきれていない様子。

(あーもー!どうせやるならガツンと言っちゃいなさいよ!)


と、そんなアネットの願望は別の形で現れた。




「リッツ。何をしている。」


またしても男性の声。しかし、その声はとても重く響いた。


「え?あ!に…じゃなくてラヴィア将軍!」
「げっ!?ら…ラヴィア様!?」


いつの間にかリッツの後ろにもう一人、黒い馬に騎乗した男性が現れた。
リッツと似た
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