第9章:カンパネルラ電撃戦 後編

時間軸は戻って、
両軍の主力がチェンバレンに向かっている頃。

ファーリル率いる第二軍団が第三軍団と合流を果たした。


その第二軍団の司令部幕舎に、
第三軍団長カーターが姿を見せる。

「ようファーリル。遅かったな。」
「うん、まあね。新型兵器が思ったより早くできたから、ちょっと最終テストをしてたんだ。」
「なんだ、もうできたのか。実戦投入はカナウス要塞攻略あたりになるかと思ってたが。」
「まだそんなに数はないから、効果が上がるかは分からない。
けど、今までの攻城兵器に比べれば圧倒的に強力なのは間違いないね。」
「なんか実物をみてみたい気分になったな。案内してくれるか?」
「いいとも。臨時の兵器工廠に来てくれるかい。」


その後二人は、前線基地にある兵器工廠(兵器を生産する場所)に足を運んだ。
工廠には所狭しと木材や鉄隗が積み込まれ、簡易溶鉱炉には火が絶えない。
ここでは昼夜問わず補充武器の生産がおこなわれるため、
常に金床を鎚で叩く音や、木材を組み立てる音がにぎやかに奏でられる。
二人がやってきたのは、工廠の入口付近にある
完成した物を運び出す場所だった。

そこでカーターが見た物は、
巨大な弓を地面と水平にし、台座と車輪を取り付けたようなものだった。
チェルシーが使っているような大型弩弓に似ているが、
その大きさは、戦車一台分を上回っていた。

「ところでカーター。この兵器を見てくれ。こいつを…」
「でかいな。」
「空気読もうよ。まあ、それはいいとして、
これが今回開発した新兵器、『弩砲(カタパルテス)』だ。」
「ほうほう、操縦者をここに乗せて、このレバーを引くのか。
しかし、今までの弩弓(バリスタ)とはどう違うんだ?」
「それについては、開発技術長から話をさせよう。」

そういうと、ファーリルは工廠の奥から熟年の男性を呼び寄せた。
年はすでに60を過ぎているだろうが、
研究者という出で立ちの割にはなかなか壮健な顔をしている。

「お初にお目にかかります。私は技術長のバートンといいます。
この試作兵器、名称は「ヘレポリス」といいます。
従来の弩弓との大きな違いは、撃ちだす物にあります。」
「撃ちだすものが違う?」
「この弩砲は従来のような大型の鏃ではなく、
このような、「ボルト」という特殊な弾を用います。
現在最新鋭の弩弓で使用されている鏃と比べてみてください。」

カーターはまず、チェルシーなどが使っている弩弓アルバレストの矢を手に取る。
長さは130p弱ととても長いが、太さは通常の弓矢より一回り大きい程度だ。

次にボルト。
見た目ですでに大きく違い、太さは人の腕くらいある。
長さは弩弓用の矢と比べて少し短く、1m前後といったところか。
しかし、その重さは3sとかなり重い。
こんなのが直撃すればゴーレムすらも木端微塵だろう。

「たとえボルトがなかったとしても、
握り拳程度の石ならば代用して射出出来ます。
最大射程は約500m。発射間隔は1分につき0.8本程度です。」
「やべぇな、これ。もはや対人兵器じゃなくて完全に攻城専門だろ。」

カーターは思わず感嘆の声を上げる。
確かに、手軽に使えるものではないにしろ
投石機より強力で、命中精度もよく、若干連射も利く。
射程も500mあれば十分だ。
ただ、強いて言うなら弾のコストパフォーマンスが悪いことか。

この兵器は、後の時代に開発された
「ヘビーボウガン」の祖先みたいなものである。


「と、いうわけで明後日から僕たち第二軍団が、攻城戦を行って
この兵器の記念すべき初の実戦投入をしてくるよ。」
「そういうのを筆おろしっていうんだっけ?」
「処女戦闘だよ。魔物と同じで、兵器はみんな女性なんだよね。」
「太いのを撃ちこむのに処女喪失なのか。兵器とは奥が深いな。」
「うむ、娘兵器(後継機)を作る際に元が男性だと矛盾がしますからな。」

言いたい放題の三人に、周囲の技術兵たちは
突っ込みを入れたかったが、怖くてできなかったという。





その翌日、第二軍団は陣地を自由都市アネットから1.5kmの地点に築き、
ここを拠点に城攻めをすることにした。
新作兵器はいずれ前線基地から運び込まれるだろう。

ファーリルは主だった将軍を集めて、作戦会議を開いた。
内訳は


・ファーリル:諸国同盟出身 軍団長 男性  童顔
・ヘンリエッタ:諸国同盟出身 副軍団長 女性 温和的
・リッツ:帝国軍出身 第一師団長 男性  鬼軍曹
・ノクロス:諸国同盟出身 第二師団長 男性 礼儀正しい
・ソラト:諸国同盟出身 第三軍団長 男性 二刀流
・ルーシェント 諸国同盟出身 第四軍団長 女性 好奇心旺盛
・サエ:諸国同盟出身 第五軍団長 女性 とても上品
・ローディア:諸国同盟出身 第一師団参軍 女性
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