第7章:カンパネルラ電撃戦 中編


自由都市アネットの中心部にある市長邸は、
この都市のどの建物よりも大きい。
別に市長が豪勢を好むというわけではなく、
単に市長の体格が大きすぎるゆえに格別の規模となっているのだ。
外見はいたって普通であり、内装も特に凝ったところはない。
さながら飾らずとも目立つ市長を体現しているかのようである。

そんな市長邸にある市長の寝室では、
特大のベットの上に、朝だというのに熟睡中の
市長フェデリカとともに、
何があったのか、すっかりボロボロのカレルヴァがいた。
彼は決して拷問を受けていたのではない。
むしろ、新たなる妻の愛情表現を一身に受けた結果である。
武闘派で発情した妻を持つ夫には、ありがちな光景だ。

もっとも、二人はまだ結婚式をしていないが…
これから盛大に行われるだろう。

「くー、くー、すぴー……、愛…してるよ…、…くー。」
「ううっ…、い…生きてるよな…俺……」

まるで自分が生きているのが不思議だという表情で、ぐったりする。
今まで何度かエルに課された訓練で体力の限界に挑戦させられたり、
カーターによって痛覚がマヒするほど打ちすえられたりしたが、
あの地獄のような一ヶ月は、昨夜の本当の地獄を
耐え抜くための訓練だったのかと考えていると…


コンコンコン。

「入るわよ。」
「?」

ノックと共に開いた扉から、
カペラ、ツィーリン、シャノン、そしてリリシアが入ってくる。

「あらあら、昨晩はお楽しみだったようね♪」
第一声を発したカペラは楽しそうな表情をする。

「ふん、無様だな。それがあの憎たらしい教団の騎士の姿か。
神の剣だなんだ言いながら、所詮人間だな。」
小馬鹿にしたような態度を取るツィーリン。

「だめですよツィーリンさん。
フェデリカさんの夫を侮辱しちゃ。怒られますよ。」
フォローしているようでしていないシャノン。

「それにしましても…凄まじい匂いですわ…
このようなところに長くは居られませんわ!
さっさと用件を済ませておしまいなさい。」
リリシアは顔を少し赤くしながらも
カペラに命令する。


「あ…あんたら…、何しに…来たんだ?
フェデリカ…なら、今は…寝ている…ぞ。」

息も絶え絶えに、彼女らが部屋を訪れた理由を聞く。

それに、カペラが応じる。
「ええ、ちょっとあなたに聞きたいことがあってね。」
「俺に…聞きたいこと…?」
「十字軍の戦略について、
あなたがわかる範囲で教えていただきたいの。」
「なっ…!なんだと!」

よりによって、直球に利敵行為を求められたのだ。
カレルヴァの驚きは相当なものだった。

「ば…ばかだろうあんたら…、
そんな…直接的に聞かれて…答えるわけないだろう…!」

もちろん彼は拒否したが、これは想定内。

「ふっ、愚かな。お前に拒否権があると思っているのか。」
「捕虜にだって…拒否権は…ある…」
「ほう、今まで魔物というだけで命乞いすら許さず
問答無用で命を奪ってきた貴様が、
どの口でそんな事をいうのか。」
「……くっ」

ツィーリンの痛い指摘に返す言葉もない。

「はいはい、抵抗はそこまでにしておきましょうね。
さもないと今からフェデリカを起こして、
昨晩の続きをさせるわよ♪」
「は?」
「今ね、フェデリカにじわじわと崔淫魔法をかけてるの。
ほらみて、フェデリカの顔、徐々に赤くなってくでしょ?
とっても気持ちよさそうな顔をしているわ。」
「ん〜……、んふぅ…、はぁっ…、んくっ……」

見るとフェデリカの頬は紅潮し、
寝息も徐々に乱れていく。
どちらかといえば苦しそうだ。

「ね、すごいでしょ。
このままいけばあまりのもの欲しさに起きちゃうわよ。」
「そうなったら貴様は今度こそ天国か地獄行きだな。」
「わ、わかった!しゃべるからこれ以上は勘弁してくれ!」

カレルヴァはあっさりと折れた。
無理もない。
原子力発電所の職員が原子炉に縛り付けられて
「徐々に反応速度を上げるぞ」と
脅されているようなものである。


「ご協力感謝いたしますわ。早速質問、よろしくて?」
「ああ…もう、やけだ。」
「十字軍司令官はこの地方を
どのくらいで攻略しようとしていらっしゃるのかしら?」
「…………三カ月。」
「へ?」「は?」「何?」「ええっ?」

これを聞いた四人は相当驚いた。
味方ですら無理だ無謀だと騒いだのだから、
敵にとってみればかなりショックだった。

「な、何という自信ですの!そこまでわたくしたちを
なめてかかってきていますの!?」
「いえ、もしかしたら兵站の問題で
三カ月しか行動できないのでは…」
「そんな脆弱な兵站、聞いたことがないわよ!
しかし、いくらなんでも三カ月は短すぎるわ!」
「だが相手はあのエルだ!奴ならやりかねん!
おそらく何か切り札があるはずだ!」
「と、と
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