私の嫌いなお父さん


キーンコーン、カーンコーン♪


フロル小学校、夕方のホームルームの時間です。
4年3組でも担任…グリズリーのクラ先生が、蜂蜜の入った壺に手を入れながら
下校前の生徒たちに連絡事項を話しているところ。

「は〜いみんな、前から言ってるけど、来週の月曜日は授業参観ですよ〜。
でも〜、授業参観の日までにひとつ『宿題』を出しますよ〜。」

宿題という単語を聴いた瞬間、何人かの生徒が嫌そうな顔をする。
いつの時代も子供は宿題が嫌いなのですね。

「みんなには〜、作文を書いて来てもらいま〜す。」

更に嫌そうな顔をする生徒が増える。
だって作文なんてめんどくさいもんね。

「題名は〜『自分が尊敬する人』ね。誰でもいいから
自分が一番好きな人のことについて書いて来てくださ〜い。
授業参観の時に発表してもらいますからね〜。」

そしてこの公開処刑宣言である。なんたる無慈悲!
…いや、少々大袈裟でしたね。
でもやっぱ子供にとっては嫌なことこの上ない。

「じゃあ今日のホームルームおしま〜い、日直さん挨拶して〜。」
「はーい」

今日の日直のリザードマンの女の子が立ち上がると、号令をかける。

「きりーつ!」

ガタガタガラガラガンガタンズシャーガタゴト(←生徒たちが立ち上がる効果音)

「れー!」
『ありがとーございましたー』
「は〜い、みんな気を付けてかえってね〜。」


本日の『義務』を終えた子供たちは、各々帰りの支度をして
そそくさと帰るなり、その場で友人とだべり始めるなり、自由の身となるのです。



さて、今日日直を務めていたリザードマンの女の子。
若葉のような黄緑の鱗に小学生女子としては珍しい167pと長身で、
左を歩く人虎ちゃんと右を歩くイエティちゃんよりひときわ目立っている。
彼女の名前はメーリスちゃん。フロル小学校に通う小学4年生なんです。

「めーちゃん、今日何して遊ぼっか?」
イエティのマトレアが腕を後ろに組みながら、
授業終わりのやや眠そうなテンションで話しかけてくる。
「んー…とりあえずバシラおばあちゃんの紙芝居をみるでしょ。」
「今日は何味かな!たのしみたのしみ!」
人虎のネルは、紙芝居屋さんが用意してくれる水飴が毎日の楽しみで、
マトレアとは逆にすでにハイテンションで鞄を振り回してます。
「そんでもってそのあとは、『自警団ごっこ』しよう!」
「いいけどさー、たまにはあたしが『たいちょー』やりたい!」
「だめー!私が『隊長』やるもん!」
「ネルだってー!」

さっそく、遊びの役割のことで揉めはじめる小学生三人。

カッカッカッカッカッカッカ

そこに、拍子木の軽快な音が響きます。

「あ!紙芝居はじまるー!」
「かみしばいー!」
「みずあめー!」

三人の女の子をはじめ、他の小学生たちも
この音を聞きつけてあっという間に校門の近くで拍子木を鳴らしてるおばあさんのところに集まります。
フロル塾小学校名物、バシラおばあちゃんの紙芝居がはじまります。

「まあまあみんな、今日もよく来てくれたわねぇ。」
「おばあちゃん!お話聞かせてきかせて!」
「あめちょーだい!」
「はーいはいはい、慌てないで順番に並ぶのよ。
今日の水飴はなーんと、パイナップル味なのよ〜、
ほ〜らぱいんぱい〜ん、ぷるんぷる〜ん♪」

見た目60代後半くらい、やや白髪が混ざる紫の髪のふくよかなおばあさん、
紙芝居屋のバシラおばあさんは、この町にしては珍しい人間の女性です。
周りの女性が魔物娘ばかりなので相対的に老けて見えますが、その分貫禄があって
時々子供たちの簡単な相談役になったりもします。

紙芝居が終わった後、早速何人かの子供たちから
今日の宿題についての相談を受けました。

「あらまぁ。作文の宿題?たいへんねぇ。
私も子供の頃、作文とかよくやらされたわねぇ。」
「それでね、尊敬する人について書くんだって!」
「偉い人のことじゃないとだめなの?」
「好きな人なら…5組のター君でもいいの?」
「あらあら、そんなに難しく考えなくてもいいのよ。
でもせっかくの授業参観だから、お母さんやお父さんのことでもいいんじゃないかしら?
もちろん先生だったり、なんならおばあちゃんだっていいのよ。」
「そっかー。じゃあ私お母さんのことを書けばいいのね!」
「わたし〜、バシラおばあちゃんのこと書いてみる〜。」
「おっほっほ、うれしいわね。でもね、尊敬する人のことだから、
ちゃんと面倒くさがらないで丁寧に書くのよ〜。」
『は〜い。』


「そっか、お母さんのことでもいいんだ。」

メーリスはさっそく、宿題の内容が決まったようです。
 
 
 
 



メーリスの家は学校から歩いて10分くらいのところにあり、
シンプルな二階建ての家で、ちょっとした広さの庭も付いていま
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