エルをはじめ、十字軍の将兵が万が一のために武器に手をかけ、見守る中
ユリアは血気立つカナウス海賊団の前に歩みを進めた。
「イル・カナウスの方々少々よろしいでしょうか。私は十字軍の従軍天使ユリアと申します。
あなた方とお話したいことがあります。どうか私の意見を聞いてはもらえませんでしょうか?」
「…あの時のエンジェルか。どうせお前も主神とかいう自己中心的な神様の使いっ走りなんだろ。」
「いえいえ、この際私がどこの神様のエンジェルかは関係ありませんよ。
私はただ、あなた方に素直に負けを認めてもらいたいなと思いまして。」
「負けを認めろ、だと?冗談じゃねぇ、俺たちはまだまだ戦えるぜ!」
「そうですか……お勇ましいのですね。ですが、もう少し冷静になって
周囲の状況をご覧になってみてはいかがでしょうか。」
アロンはユリアに言われたとおり、ふと周囲を見渡してみる。
自分たちの周りを囲むのは、先ほどまで無邪気に応援していた十字軍兵士たち…
それが今では殺気をみなぎらせ、武器を手にとって臨戦態勢になっている。
いくらカナウス海賊たちが力自慢の剛の者ばかりだと言えども、多勢に無勢。
アロンは先ほどのエルの攻撃で武器を没収されてしまい、全員素手である。
武器なしでこの数万の軍勢の囲みを突破するのはいくらなんでも無謀だ。
「いま、圧倒的な武力で敵を脅すのは卑怯だと思っていませんか?」
「…当たり前ぇだろうが。お前ら反魔物国はことあるごとに武力に訴えやがる。
少しでも平和に暮らしている海の民たちのことを考えたことがあるか?」
「そうだそうだ!お前たちさえ来なければ、俺たちは平和に暮らせたんだ!」
「妻との蜜月の日々を返せ!」
「そう思うのでしたら、なぜあなた方は徒党を組んで海賊行為を行っているのですか?
少なくとも海賊行為を働くのでしたら、それなりの覚悟があると思っていましたが…」
「なんだと!俺たちに海賊の覚悟がねぇってのか!ふざけんなよ!」
「平和にすごいたいにもかかわらず海賊行為を働くのですか。少々矛盾していませんか?」
笑顔のまま頭ごなしに海賊としてのプライドを否定されて怒る海賊たち。
しかしユリアは怖がりもせず、話を続ける。
「あなたは交渉に来たとき、お互い勝ったら相手の条件をのむという約束をしましたね。
ですが、あなた方は自分たちに都合が悪くなると急に約束を反故にするのでしょうか。
あなた方にプライドがあるというのなら、せめて男らしく約束は守ってほしいのです。」
「じゃあなんだ、お前らの方こそ約束は守るってのか?」
「そうですね、そもそもあなた方をこの陣地の中に招き入れた時、
戦う前にあなたたちを捕縛するなりやっつけてしまうなり
すればもっと早く片が付いたはずです。ですがエルさんがそれをしなかったのは、
あなた方がきちんと約束を守ってくれる方々だからと見込んだからです。
もし、アロンさんが負けることを前提にせず条件を提示したというのでしたら、
私たちユリスの民はあなたたちカナウス海賊団を戦士として軽蔑します。」
「…………痛いこと言ってくれるなあんた。」
「ええ、言いますとも。エルさんは驚いていたんですよ、仲間のために
自らの命を顧みずに敵のまん真ん中に飛び込んでくるアロンさんの行動力を。
あなたのような豪快な男性は世界に何人もいないのではないか…と。」
「ねえエル、ユリアさんで何とか説得できそうかしら?」
「可能性は高い。今アロンの奴は頭に血が上っていて俺の言葉なんかには耳を貸さないだろう。
その点ユリアさんにはその場の雰囲気を和ませる力がある。」
「…ならいいんだけど。」
しかし、エルにはまだ別の懸念材料があった。
「だがユリアさんは…今回は別の面で問題に直面するだろう。」
「別の面…?ああ、そういえば…。でもそれだと下手すればユリアさん、
味方からの信頼を失いかねないんじゃないかしら。どうするの?」
「フォローはする。しかしユリアさんには……『味方との戦い』
というものを知ってもらう必要がある。」
読者の皆様方は、エルはユリアだけには甘いと思っているかもしれないが、
実はそんなことはなく、ユリアに対しても厳しい仕打ちをすることだってある。
甘いと見えるのは、たまたまユリアがエルの出す課題にほぼ常に模範回答を出せるため
厳格な指導を必要以上に行われないからなのだ。
そして今回の説得…当然ユリアの中では勝ち筋は見えてはいる。
(私たちは魔物を絶滅させに来たのではありません…。これ以上海賊行為をやめて、
海上交易路の安全が保障されればそれで目標は十分達成できます。
それを海賊さんたちにわかってもらえれば……これ以上血は流れません。)
しかし彼女は大きな見落としをしていたことに、まだ気が付いていない。
「あの、
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