さてさて、私はどうしてこのようなことをしているのだろうか。
何度も何度も自問自答を繰り返すが、その都度出る結論は
『自分自身の意志の弱さが招いた結末』でしかなかった。
責任、道徳、名誉、分別…これらの言葉が、見えないところから
私に対して指を突き付け、お前は世界一の愚か者だと非難する。
「ルナ…その、私重くないかしら…」
「何を仰られるのですか。私は勇者様より重たいものを振り回すこと
だけが取り柄の様なものです。どうってことありませんよ。」
傷つけないよう慎重に丁寧に、両腕で抱きかかえた大切な人が
この上ない羞恥の表情で抱きかかえる私を見上げてくる。
私もなるべく平然を装い応答するが、やはり顔が熱い。
きっと私の顔も熟したリンゴのように真っ赤になっているに違いない。
「あっ……」
ふと、彼女は私の頭から伸びる―私の数少ない自慢の―銀色に輝く髪の毛を
その手に取り、うっとりとした目つきで眺め、すんと一呼吸して
発せられる匂いを堪能する。…そんなことされると余計ドキドキしてしまう。
「この子も…ルナみたいな綺麗な銀色の髪の毛になるといいな。」
「そ、そうですか?私は勇者様の髪の毛も素晴らしいと……」
「ううん、私はあなたの髪の毛の方が好き…。」
ねっ、と笑いながら私の髪の毛を自らの指にくるくると絡ませる。
「それにね、安心するの。…ルナのだっていうこれ以上ない証明になるでしょ♪」
「………」
返す言葉がなかった。それは逆に、私が犯した罪の証明にもなるのだから。
でも…とてもうれしかった。心が張り裂けんばかりにとめどない気持ちが
溢れて止まらない。自分の役目をすべて投げ出して、どこかに逃げてしまいたい。
「勇者様。」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
ああ、なにもかもがあの時と同じ道をたどっている。
きっと私は一生この女性には逆らえない。月が太陽に勝てるわけがないのだ。
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
勇気を振り絞って愛しい人の名を囁くと、彼女は満足したようなとろけた笑みを浮かべ
片手で私の髪を弄びながら、もう片方の手で自身の腹部を愛おしそうに撫でまわした。
隠しようもないくらい、いやらしく膨らんだそのお腹を…
…
【太陽の勇者】ソルといえば、
この世界でもとくに有名な勇者の一人であることは間違いない。
腰まで届く波打つような紺碧の髪にサファイアのようだと例えられる
深海のような色の瞳、うっすらと飴色をした健康的な肌に、
「我こそは正義」と言わんばかりの凛とした顔が特徴的だ。
先祖に勇者や聖女を何人も輩出した名家の生まれで、
正義感が強く、弱きを助け強きをくじく立派な性格の持ち主。
幼いころから何事も人一倍優秀だった彼女は、すぐに勇者候補として
出身地・エクセール王国に召集され、サンドリヨン中央教会で洗礼を受けた。
彼女の優れたところは、その才能だけではなく自ら努力を怠らなかったことだろう。
王国の剣術だけではなく、修業のために時折隣国に出かけては
数多くの流派の剣術や魔術を学び、瞬く間に自分のものとしていった。
そして、18歳になり正式に勇者と認められる。
中央教会から『聖剣・ソル』…彼女の名前を冠した最強の聖剣が手渡され、
神族のお告げにより勇者としての加護をその身に宿した。
彼女が持つにいたった加護の力は、類を見ないほどの強力なもので、
その効果に王国や教団のだれもが驚きを隠せなかったという。
彼女は光の神ルグスの加護により、陽が出ている間は身体能力が大幅に向上し、
剣を一振りするだけで周囲数百メートルに浄化の光が振りまかれる。
これを浴びれば、邪なるものは抵抗するまもなく光にかき消され、
心正しき者は傷がたちどころに癒え、勇気が無限に湧いてくる。
それはまさに、闇を暴き、世界を照らす太陽。
彼女の勇姿を人々は大いに讃えたのだった。
勇者と認められてしばらくもしないうちに、彼女に任務が課された。
それは、世界各地に散らばった「星の欠片」を回収するというもの…
元々一つの聖なる宝玉だったものが、先代主神が魔王討伐の際に誤って割ってしまい
(しかもこれ、他の神からの借り物だったらしく……)
それが欠片となってバラバラに飛び散ってしまったのだ。
もしかしたら、中には魔界の奥深くに飛んで行ってしまったものもあるかもしれない。
回収は困難を極めると予想された。
それと同時に、中央教会はそのような回りくどいことをする必要はなく、
彼女自身の力で魔王を討ち滅ぼしてしまえばいいと確信していた。
歴史上このような短絡的な考え方は身を滅ぼすことが証明されているのだが、
生憎自分たちを絶対正義と信じる者たちは、それが理解できず
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