自由都市アネット…
この地域の親魔物諸国と教会直属領の国境における最前線であるこの都市は、
10年ほど前に起きた革命によって反魔物から親魔物に転じた歴史を持つ。
以来、幾度となく教団の軍や反魔物国から攻撃を受けたが
その都度撃退し、自治を守っていた。
また、交通の要所の一角を担っており
商業や交易が非常に盛んとなっている。
その繁栄ぶりは、この辺りに暮らす魔物たちとその親しい人たちにとっては
非常に頼りになる存在であり、
同時に反魔物諸国にとってその難攻不落ぶりは目の上の瘤であった。
そんな大都市を統治しているのはミノタウルスという魔物である。
銀髪に立派な角、健康的な褐色肌をしているが
何より特徴的なのは2m前後もある巨体である。
ミノタウルスの中でもこれだけ大きい個体はそうそういない。
「あー、ねむっ。十年も市長やってるのに、未だにつらいな。
だが自分からやり始めたことだから文句言っちゃいけんな。」
ぼやきながらも書類に目を通していく。
彼女の名はフェデリカ。日常生活以外に消極的なミノタウルスにしては珍しく
市長として都市の運営にあたっている。
元が寝てばかりのミノタウルスの習性か、いつも眠そうにしているが
いつの間に市長を十年も続けていた。
それだけ彼女は市民からの支持率も高く、
周りの行政官も彼女をしっかりとサポートしてくれている。
フェデリカも期待にこたえるために頑張っているのだ。
コンコンッ
「市長、失礼します。」
ノックの音の後に男性の声が聞こえる。
「おう、どうした?」
フェデリカがノックに返事をする。
「市長、来客をお連れいたしました。」
入出してきたのは青い髪に白い法衣を纏った若き男性と、
金髪のツインテールに白銀の鎧を着込んだ女騎士だった。
「久しぶりですわねフェデリカ。元気にしていらして?」
「誰かと思えばリリシアか。見ての通り今すごい眠いんだ。
長話をしに来たって言うなら明日にしてくれ、耳栓用意するから。」
「はなから話聞く気ゼロですわね!?わたくしを何だと……
いえいえ、今は緊急事態ですわ!それを伝えに
わざわざここまで来たというのに、あなたときたら!」
「なんだ、それなら初めからそう言えよ。」
「おのれーーーっ!!」
「まあまあリリシアさん、落ち着いて…」
突如漫才を繰り広げる二人を青年がなだめる。
リリシアと呼ばれた女騎士は、デュラハンという魔物で
アネットからさらに東に位置するこの地域の中心都市カンパネルラを首都とした
その周辺を治める領主である。
この地域が有事の際には、自身が軍を率いて
侵略してきた国から親魔物国を守っている。
先ほどのやり取りのように、常に高飛車な性格でプライドが非常に高い。
しかし、そのような振る舞いが許されるほどの実力があるのも
また事実である。
彼女とフェデリカはこう見えても旧知の間柄。
お互い領主として、助け合ったことも何度かあった。
「それで、緊急事態ってなんだ?
もしかして、この前教団側が結成したっていう十字軍のことか。」
「知っていたのでしたら話は早いですわ。その十字軍について
いよいよこちらに向かってくる動向が見られますの。」
「ほう、いよいよこちらに来るか。
ま、どんな敵が相手だろうと撃退するまでだ!」
「ところが、ですわ。今度の相手は
そう簡単に撃退できるものではなさそうでしてよ。」
「なに?」
リリシアのいつにも増して深刻な表情に
フェデリカは怪訝な顔をする。
「よって、急遽対策を練るためにも周辺の都市の市長に
ここアネットに集合してもらうのだそうです。」
青年が補足する。
「市長たちが集まり次第会合を開こうと思いますので、
そのための予定と集会所の確保をしたいと考えています。」
「わかった。予定の立案はリリシアとパスカルに任せる。
その間に私が市長たちに連絡しておこう。」
「よろしくお願いしますわ。」
「では早速、日程調整を行ってきます。」
青年は一足先に部屋から退室した。
青年の名はパスカル。
この都市で内政官を務めているほか、
こう見えてもサバトに所属している。
その訳は…
「兄さん!呼んだ?」「お兄ちゃん!呼んだー?」
二人の魔女が同時に駆け寄ってくる。
「うん、二人にこれから手伝ってもらいたいことがあるんだ。」
「兄さんのお手伝いだったら喜んで!」
「私も―!」
そう言って二人の魔女はパスカルについていく。
二人の魔女は正真正銘の双子で、
二人とも青髪のお下げに青い瞳をしている。
口調がやや異なる以外は見分けがつかないほど似ている。
そして、二人ともサバト所属の魔女であると同時に
パスカルの『妻』でもある。(重婚は認められている。)
優しい口調の方が姉のイリーナ。
元気一杯の口調の方が妹のイレーネ。
妻が
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