番外:まだ見ぬ指導者たちの肖像…(2)

今期の格言
隣の国同士は大抵仲が悪い。
仲が良かったらそもそも国境など存在しないはず。

『政治学史U巻』




中央大陸の内陸に位置する、高原と深い谷間が入り乱れる地…
万年雪をいただく高山を目前に眺められる谷間にある村で、
一人の少年が仰向けになり、青空を眺めていた。
少年は一日の仕事にひと段落つけると、こうしてお気に入りの場所で
高い空を眺めることが日課となっている。
彼の目当ては、青空を悠々と飛ぶ複数の大きな影、
ワイバーンとそれに騎乗する騎士たち…この国が誇る切り札にして
大陸最精鋭との誉れ高い『竜騎士』の編隊飛行だった。

「あぁ、いつか僕もあんなふうに……ワイバーンに乗って空を飛んでみたいな。」

ごく普通の村人に生まれた彼にとって竜騎士は憧れの存在だった。
自分ではきっと叶わぬ夢だということは薄々分かってはいるが、
それでもワイバーンに乗って大空を駆け巡ってみたいという思いは、
成長期の少年の心を躍らせた。

「もしも僕に翼があったら…空は僕のもの。高く高く、飛ぶんだ…」

ではどうやって?残念ながら肝心の方法が分からない。しかし…


「そこの君、なかなか大逸れたこと言ってるじゃない。
しかもまだこんなに小さい子なのに、お姉さん感心しちゃうな。」
「え?えっと…」

いつからいたのだろう。少年の背後には、黒色の鱗のワイバーンが降り立っていた。

「よしよし、お姉さんが君の願いを叶えてあげよう。えっへん。」
「本当!?ってことはワイバーンのお姉ちゃんが僕を乗せてくれるの?」
「もちろんよ。ただし、ひとつ条件があるの!」
「条件?」
「うん、それはね……」

黒い鱗のワイバーンは、その場で少年をゆっくりと押し倒し
自身の唇を少年のそれに重ね合わせる。

「……!?」
「君のたった一つしかない『モノ』…お姉ちゃんにくれるなら…ね♪」


この日、谷間の小さな村の片隅で、少年と少女の嬌声が数時間に渡って響き渡った。
それと同時に…この国の将来の英雄がその歴史舞台への一歩を踏み出す。







「平和ですね、お兄様。」
「そう、だな。民草の顔はどれを見ても笑顔で、不安を一切感じさせない。
これも全て、彼らがわが国を心から信頼し、安心している証拠なのだろう。」

地上から少年が見上げていた竜騎士の編隊…
実は、この国の指導者が数人の部下たちを連れて視察にきていたのだ。
燃えるような赤い髪に精悍な顔立ち、そして赤い鱗のワイバーンにまたがる姿は、
この国が誇る竜騎士の頂点に立つものに相応しい威厳があった。

「ですが…この平和は決して長続きしないでしょう。
われらが争いを望まずとも、他国がその戦渦を広げてくることは必定、
その時こそ、お兄様と私たちの真価が問われるのでしょうね。」
「順境は王の名を高め、逆境は王の名を試す……ふん、
この世から王が居なくなっても、人々が平和に暮らせる世界はこないものか。」

束の間の平和。しかしそれは長続きしないことなど明らかだった。
ならば王はこの世界で何を望む?
時刻の平和を第一に過ごすか、それとも理不尽な世界に挑むか……







 
 
 
 
 
 
エルフ大陸のリチャード・ライオンハート、
ニューイーストのアスティナ女皇、
どこの大陸にも狂信者と呼ばれる指導者が存在する。
そしてこの中央大陸においてもそれは例外ではない。

「魂の堕落……それは世界を愛と快楽で包む…。
ああ、堕落の女神アガレス様…いま、あなたのお声が聞こえます…」

この世界で『蒼褪めたヴェール』が創始されました

中央大陸南端の海岸地帯に広がるこの国で、
ちょうど今、このゲームを代表する魔の宗教『蒼褪めたヴェール』が創始された。
堕落神の熱心な信者であるこの国の指導者は、国民へ、ひいては大陸全土に
堕落神の教えを広めて、この世を魔界に変えようともくろんでいたのだが、
その大きな節目となる発展的な宗教を創始したことによって、
その動きはますます加速していくことだろう。

「ああ、女神様。本日も1単位の人口の人々を、堕落の道へと誘いました。
国民は愛するものを片時も離さず睦みあい、眠っているときは誰もが淫夢に喘ぎます。
ですが……まだ、まだ足りません。これはまだ、あなた様と私にとって
始まりに過ぎないのです。この世界を…桃色に染め上げるその日まで……」

漆黒の修道服をまとい、堕落の色に染まった羽をはためかせる彼女は、
淡々と信仰する神への祈りをささげているように見えるが、
ちょっと下に視線を移すと、そこには彼女に組み敷かれ
腰を振られながら喘ぐ男性の姿があった。

「ふふふ……、そろそろ観念して、私に愛を捧げて下さい♪」
「だ、誰が……君なんかに…っ、屈するものか……っ!」
「そんなこと言われましても、
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