第9期:援軍


今期の格言

「最後に殺す敵」と書いて『とも』と読む。
友人は大事にしよう、そして後で裏切ろう。

建国帝チェザール・アクスト(アクストT世)




智鶴率いるダークエルフ国は東に位置する新大陸への探索を開始し、
初出航を迎えたガレー船に探検隊を載せて海の向こうに向かわせた。

だが、それと同時に智鶴は、空からも探検隊を送り出していた。


「到着ーっ!あたし一番乗り!」

東の大陸の一番西の都市…ビートル共和国領『エルエスの巣』
(ビートル共和国の都市は『〜の巣』と呼ばれるのが慣例)
に、闇色の羽を持つ少女が降り立った。
彼女はつい最近ダークエルフたちに雇われたブラックハーピーの斥候で、
首都から飛び立ちはるばる海を越えてここまでやってきたのだ。
これからダークエルフたちの未知領域探索は彼女たちの仕事になるだろう。
戦闘能力は持たないが、その代り攻撃されることもなく、
さらに隠れた敵を見つけ出す能力を持っている、なかなかの便利屋と言える。

「はあぁ〜……変わってるなーこの町。建物が全部、土で出来てるよー。
これ全部ジャイアントアントたちが作ったんだってね。
でもあたしは昼間でも薄暗いあの森林都市のほうが性に合ってるかな。」

大勢のジャイアントアントと人間たちが行き来するこの都市は、
地形を大胆に利用した粘土と煉瓦の住居を洞窟のように構えている。
例えるなら、トルコの文化遺産『カッパドキア』がもっと大規模になったようなものだ。
とにかく人口が多いビートル共和国ならではの光景と言える。

「よーしっ!俄然探検が楽しみになってきたよーっ!
未来の旦那さんを手に入れるためにも、智鶴様に名前をもらうためにも!」

ブラックハーピーの少女はグッと意気込むと、再び新大陸の大空に舞いあがる。
まだ見ぬ大陸勢力との接触を求めて………
 
 
 
 
 
 
 
 
一方、本国の方では智鶴の指示で、ダークエルフ軍が次々とリートゥスの救援に出撃。
首都の防衛軍は最低限に残し、弓兵を主力とした部隊を、首都インスマスに向かわせた。

すでにトメニア王国軍はライネル将軍率いる部隊が国境を越え、
トメニア側に最も近い都市パラデラはすでに敵の攻撃にさらされている。

「彼女たちがやられたら次は僕たちが危機に陥ってしまう!何としてでも助けないと!」
「ですが智鶴様、今攻められてるのは国境の都市ですよ……首都を経由すると間に合いません!」
「エミィ……今攻められてるところに駆けつけてもそれこそ間に合わないよ。
せめてリートゥスの首都だけでも生き残ってもらわないと。」
「ちーちゃんの言うとおりね。リートゥスの首都は私たちの経済の生命線……
ここを落とされたら苦しくなるわ、戦力は一点に絞りましょ。」

トメニア王国軍の動きは素早い。
宣戦布告から2ターン後にはパラデラは陥落し、リートゥスがあわてて差し向けた
増援部隊はトメニアの騎乗兵によって瞬く間に蹴散らされてしまい、
逆に後方の都市がその分手薄になってしまったようだ。
智鶴の言う通り、今から前線の救援に行っても間に合わない。

リートゥスにしても聖エロニア共和国にしてもそうだったが、
戦争が下手な国は一ヵ所が責攻められるとパニックに陥り
兵力をその場その場で考えなしに投入してしまう癖がある。
これでは敵に経験値を捧げるようなものだ。


「ぐわっはっはっはっは!弱い弱い!所詮は陸に上がった魚、手ごたえが全くない!」
「ふん、大陸最強のわが軍と比べる方が間違っているのだ。
ほれほれ、敵の第二都市も騎馬隊だけで落ちそうではないか。」

へリング元帥とポータル将軍はあまりにも弱いリートゥス相手に余裕綽々で、
すでに勝ちを確信しているようだった。で、面白くないのが
後方で歩みの遅い攻城兵器を率いてのろのろ進軍するグレープ将軍だ。

「おいおい、少しは俺にも出番を残しておいてくれよ。お前らだけずるいぜ。」
「残念ながらお前の出番はなさそうだなカルピス将軍?
投石器と一緒にゆっくりと来るといい、首都には自分が旗を立てといてやる。」
「黙れアンポンタン!騎兵ばっかりで首都を落とせると思うなよ!」
「んだと!やんのかコノヤロー!」

「将軍ども!喧嘩してる場合か!さっさと敵の首都を余に献上せよ!」
『うへーーっ!!』

こんなやり取りがあっても、トメニア王国軍の攻撃は止まらず、
とうとう第二都市キングスポートまで接近を許した。

「あなた〜!どうしましょう、敵がもうすぐそこまで!」
「大丈夫だルミナ…こうなったら僕がこの身を張ってでも止めてみせる!」

第二都市の危機に、ルミナとその夫ガイブラシは
少ない軍隊を割いて増援に向かわせようとする。
しかし…

「待った待った!今その軍隊を動かさないで!」
「智鶴さん!?」

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