これは、エルがギルド長に就任してから
そろそろ一年経過しようとするくらいの時期のお話…
この頃のユリアは日々を気ままに過ごしていた。
ある時は教会で説法を行い、
ある時は兵舎に立ち寄り兵士たちと交流し
ある時は冒険者ギルドの託児所で子供の世話をしたりと
ロンドネル市民たちとの親交を深めていった。
しかし、ユリアが何よりも優先していたのは
エルのサポートだった。
エルは軍事顧問と冒険者ギルド長の両方を兼ねており、
仕事の量は計り知れなかった。
この日の前日も、エルが帰宅したのは夜も遅い時間であり、
ユリアがたしなめなければそのまま執務室で寝ていただろう。
今までにも事あるごとに、家に帰らず
仕事場でそのまま寝てしまっていたし、
睡眠時間もかなり短いことも日常茶飯事だった。
このような状態はエルの健康上良くないと考えたユリアは
秘書のような形でエルをサポートしたり、
ケルゼン領主にエルの仕事を何とか減らすことが出来ないか頼んだ結果、
昨日のように、いくら仕事が多い日であっても、
なんとかその日のうちに仕事が終わるようになった。
そして、今日はユリアがエルの家族に代わって洗濯をしていた。
住みこみというだけではあるが、この家のために何かしたいと
頼み込んだ結果、この家の家事を分担させてもらった。
「〜〜♪〜♪」
今日も天気は快晴で、この分だと洗濯ものは
すぐに乾きそうだ。
ご機嫌なユリアは、いつもにもまして頭上の環を輝かせ
口ずさむリズムに合わせて背中の羽をはためかせる。
数分してすべての洗濯物が干され、
今日の予定はどうしようかしらと考え始めたその時…
「え〜、せっかくの休日なのに勉強するの!?
たまにはにいさんとどこかに遊びに行きたいのに!」
「俺は今日から三日間隣の国と合同訓練に行く予定だ。
明後日まで家には帰ってこれそうにないな。」
「でも、だからって私に勉強しろって…
平日だって士官学校で一生懸命頑張ってるのに。」
何やらエルとフィーネが言い合っている。
そういえば、エルは昨日隣国との合同訓練に行くから
明後日まで国を空けると言っていたということを思い出す。
「よろしければ、私がフィーネさんの勉強を見てあげましょうか?」
「え!?ユリアお姉ちゃんがいっしょに勉強してくれるの!?」
「ユリアさんが勉強を…?」
嬉しそうな表情をしたフィーネと対照的に
エルは素っ頓狂な声を上げる。
「?どうしました、エルさん?」
「いや、ユリアさんがフィーネについていってくれるのはありがたいのですが、
いかんせん勉強させる内容が内容なもので…。」
そう言ってエルは考え込む。
「まあ…この際だから…。」
数瞬考えた後結論を出した様子のエル。
「では、ユリアさんにフィーネの付き添いをお願いします。
ユリアさんがついていけばフィーネも勉強がはかどるでしょう。」
「わかりました。」
「フィーネもそれで異存はないな?」
「うん!ユリアお姉ちゃんが一緒なら私頑張る!」
「ならよかった。じゃあ、その勉強の内容だが…」
しばらくした後、ユリアとフィーネは
ロンドネルが誇る中央図書館に来ていた。
領主の館より大きいのではないかといわれる
この圧倒的な規模の図書館は、
その昔、元ギルド長のアルレインの決死の努力によって
旧アルトリア王国の王立図書館から
全ての書籍を回収し蔵書していた。
それに加えて、全国各地から取り寄せた本がその都度増え、
古今東西の本はほとんどここに来れば読めると言っても過言ではない。
一年前にユリアがこの図書館に初めて来館した際、
あまりの本の量に思わず圧倒された。
これらの本を全て読破するのには、人間の一生どころか
エンジェルの一生をかけても不可能なのではという気がした。
それ以降も何度か読書のために図書館で本を借りることはあった。
今日彼女らがここに来たのはもちろん勉強のためである。
しかし、その勉強は士官学校では教えない類のものだった…
「やあ、ユリアさんにフィーネちゃん。ごきげんよう。」
図書館に入ってすぐ、ファーリルと会う。
「ごきげんよう、ファーリルさん。」
「こんにちは!」
二人は挨拶を返す。
「今日はこの図書館に何の用ですか?
この図書館には絵本から小説、古文書、ポルノ、マキモノ、一撃必殺の禁呪魔道書まで
なんでもそろってますよ。良ければ案内しましょう。」
「そうですか、では…」
ユリアは少し間をおいて…
「魔物図鑑はどこにあるかご存知ですか?」
「……ぇ?」
ユリアの要望にファーリルはきょとんとする。
「実はね、にいさんが言うには、
私が将来軍を率いる上で魔物について知っていた方がいいから、
魔物の種類やその生態を学んでおけって。」
「…ああ、なるほど、そう
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