――午前2時、ホワイトパレスの客人用寝室にて。
「くそっ、眠れやしない!」
コレールたちにあてがわれた部屋のベッドはまぎれもない高級品ではあったが、それでも 今夜のコレールを安眠にいざなうことは出来なかった。
日中のクリスとの言い争いも寝つきの悪さの原因の一つだが、それとは別に根拠のない胸騒ぎが彼女を苛んでいた。
「……便所にでも行くか」
――――――――――――――――――
カンテラを手に宮殿の廊下を歩くコレール。 その仄かな明かりが、自分以外の何者かの影を浮かび上がらせる。
「(……誰だ?)」
咄嗟に物陰に隠れて周囲を伺うと、見覚えのある人間が兵士を連れて廊下を進んでいく姿が目に入った。
「(ジャック=ロウ? こんな時間に何を……?)」
不思議に思いつつなんとなく後ろを振り返ったコレールは、もう少しのところで声をあげそうになった。
「(クリス、ドミノ! 何してんだ二人とも! ……いや、ちょっと待て……)」
コレールはロウの足音が遠ざかっていくのを確認してから、改めて口を開く。
「それで、どうしたんだ? 何かあったのか?」
「コレール……アラークがいないの」
カンテラの灯りで照らされたクリスの顔色は、いつになく青ざめていた。
「いないって……トイレかなにかだろ」
「いいや、便所も含めて行きそうなところは探したけどどこにもいなかった。他に探していないところは裏庭ぐらいだ」
ドミノが首を振りながら答える。
「なんだよ……こっちはこっちで怪しいんだ。ロウがこんな真夜中に兵士を連れて、廊下をうろついている」
三人はこの状況に対応するための対策を早急にまとめた。 コレールはパルムを連れてロウを尾行し、彼の行動の目的を確認する。クリスとドミノは裏庭まで行ってアラークを探し、見つからないようであれば一度部屋に戻ってコレールからの連絡を待つという方針だ。
「大きな騒ぎにならなきゃいいけど」
コレールはパルムが眠っている部屋に戻りながらぼそりとつぶやいた。
――――――――――――――――――
――午前2時7分、大司教の寝室。 大司教の心地よい眠りの時間は、寝室の扉が音を立てて蹴り開けられる音によって突如として終わりを告げた。
「おうっ!? ……ジャック? こんな時間に何事だ!?」
「大司教。元奴隷たちの中には貴方のことを慕っている者もいる」
兵士たちを連れたロウが首元のロザリオを展開すると、十字架を形成する2本のアームから、それぞれ細身の短刀が姿を現した。
「だから、なるべくおとなしくして頂けるとありがたい」
短刀の刀身がぎらつき、聖ホリオは恐怖で一気に縮こまってしまう。
「なぜこんなことをするのだ、ジャック……!」
「この国は、我々のような奴隷だった者の血によって創られた。物事の正当性を重視するならば、本来は我々の手に渡るべきだとは考えなかったのか?」
ジャックはさらに続けた。
「既にこの国の各地で同士たちが制圧に向けての行動を始めている。この国から、主神教団の信仰はその名残すら消え失せることだろう」
「そこまでにしておけ、ジャック=ロウ」
振り返ったロウが目にしたのは、部屋の入口に陣取るコレールとパルムの姿だった。その後ろにはリネス=アイルレットとフレイアが、さらに勇者カエデが続いている。
「前からきな臭い男だとは思っていたが……クーデターまで企んでいたとは。処罰されてでも殺しておくべきだった」
リネスの口調は冷静そのものだったが、その緑色の瞳には怒りの炎が宿っていた。
「ふふふ……」
「何がおかしい」
「出せ」
ロウは笑みを浮かべて取り巻きの兵士に告げると、大きな袋の中から何かを床にぶちまけた。
「アイリーン!」
床の上に転がされた少年の姿を前にして、リネスは驚愕に目を見開く。
「お前たちの邪魔が入ることを予想していなかったとでも? 人質の命が惜しければその場で跪け」
ロウはそう言うと縛り上げられたアイリーンの喉をブーツで踏みつける。
「跪け。この子の喉が潰れるところを見たいのか?」
ロウの卑劣なやり方に憤りつつも、うかつに動くことすらできなくなったコレールたち。
だが、ロウを含めて寝室にいる者たちは、その緊張感故に誰一人窓の外から飛んでくる物体に気が付くことが出来なかった。
ガシャァァン!!
「にゃはははははは!! 儂はウィルザードサバトの長、バフォメットのルーキ!! この国をロリコンパラダイスにするために、今ここに降臨した!!」
「……」
突然の事態に困惑する一同。
「リネス=アイルレット! お主の結界を破るのにはなかなか手こずっ
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