第5話「Mr.スマイリーが見てる@」

「……」

クリスは無言でスプーンに乗っている黄緑色の物体を見つめていた。

砂漠の夜は日中の暑さが嘘だったかの様に気温が下がる。魔法で起こした火を囲んでいるとは言え、エミリアが根菜とホルスタウロスのミルクで作った温かいシチューは、体を内側から温めてくれる、ありがたい存在だった。







シチューの中に転がっていた緑色の物体を見つけるまでは。

「ねぇ、エミリア? この緑色のって……もしかして……」

「あ、それはサボテンです」

エミリアはにっこりと笑って答えた。

「サボテンは栄養が不足しがちな砂漠の旅だと、貴重な現地調達出来る食材の一つなんです。お母様も良く食べていたと言っていました」

「クリス、好き嫌いは無しだぜ」

コレールにピシャリと言われたクリスは意を決して、その緑色のスライムの様な物体を口の中に放り込んだ。

「うぅ……ヌルヌル……」



ーーーーーーーーー


翌日、午後4時半ーー



ウィルザードの砂漠は、端から端まで不毛の地と言うわけではなく、所々に淡水が存在する場所がある。俗にいう「オアシス」である。

例え砂漠のど真ん中でも、淡水があれば植物が育つ。植物があれば動物が集まり、やがて人間や魔物娘も集まってくる。人々が集まればそこに集落が形成され、集落は小規模な街へと成長していく。ルフォンとサンタリムの丁度中間地点に位置する砂漠の集落、ニレンバーグも、そのようにして形成された街の一つである。

そのニレンバーグの街中を、ボサボサの黒髪を生やした一人の青年が歩いていた。眼の色は金色で猫背気味な上に、乾燥地域の人間にしては手足が細々として白っぽく、その人を喰ったような雰囲気を醸し出すその容貌は、お世辞にも男前とは言い難い。服装は黒を基調としたパンクな意匠で、そういうデザインなのか、ただ単に暑いからかは分からないが、袖が両方破りとられていた。

青年は口笛を吹きながら街中を歩いていたが、その視界に、家屋の軒下でシクシクと泣いている「アリス」の女の子が飛び込んできた。

「おい、どうかしたのか?」

青年が尋ねると、アリスの女の子は泣きながら家屋の屋根の方を指差した。

「ボールが屋根に乗っちゃったのか……よし、待ってろ」

青年はそばに落ちてた棒切れで、屋根の上のボールを器用に小突き、落としたボールをアリスに渡してあげた。

「おにいちゃん、おおきに!」

女の子はニッコリと笑って青年にお礼を言うと、ボールを大事そうに抱えて走り去っていった。

青年は、アリスの女の子の背中を穏やかな視線で見送っていたが、ふとその視線を道の反対側に向けると、表情が真っ青な色に変わった。

建物の上部で、建築作業をしているのであろうジャイアントアントが作業に集中していた。作業に集中し過ぎて、自分の背後に積んであるレンガが、今にも下にある道の方まで崩れ落ちそうなことに、気がついていないのだ。

そして、予想される落下地点を今まさに、ホブゴブリンの女の子が通ろうとしているーー。


「危ねぇぞ! レンガが落ちてくる!」

青年はそう叫ぶと、ホブゴブリンの女の子に向かって走り出した。ホブゴブリンの女の子は驚いた様子でその場に立ち尽くし、ほぼ同時に重力に耐えきれなくなったレンガの山が、彼女の頭目掛けて崩れ落ちてくる。

彼女の前を歩いていたリザードマンが振り返って何事か叫んだが、青年の耳には届かなかった。

青年は走り込んだ勢いのまま跳躍すると、ホブゴブリンの女の子の体を突き飛ばして、安全な場所へと押し込む。女の子は悲鳴を上げたが、青年の体は容赦なくレンガの山に飲み込まれていった。






「ありゃ、お前さん、大丈夫かい?」


建物の上部で作業を続けていたジャイアントアントは、呑気な声でレンガに埋もれて気絶している青年に呼び掛けた。




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21時。ニレンバーグのとある酒場にてーー。


「畜生、身体中がズキズキしやがる……」

幸い、青年は大きな怪我を負うこともなく、診療所で湿布を貼って貰うだけの治療で回復することが出来た。コレール達は、身を挺してエミリアの危機を救ってくれた青年を労うために、彼に酒を奢ることにしたのだった。

「悪いな兄さん。私が直ぐに行動してれば良かったんだけど」

そう言ってコレールは青年のグラスにウイスキーを注ぐ。

「いや、気にするな。俺が好きでやったことさ」

青年はグラスに注がれたウイスキーをチビリと口にした。

「ちょっと待ってくれ……ほら、エミリア。言いたいことがあるんだろ?」

コレールはカウンター席の並び順をエミリアと入れ換えて、彼女と青年が顔を見ながら話せるようにした。


「あ、あの、私、エミリア=イージスと言います。今日は助けてくださって、本
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