第33話「賢者の森@」

魔王軍の野営地を発ったコレールたち一行は、ウィルザード唯一にして最大の森林地帯、通称「賢者の森」の中を進んでいた。

コレールたちがこれまで集めた情報によると、そこはウィルザードに古来から住むエルフたちの縄張りであると同時に、魂の宝玉発祥の地であるということである。

「(踏むのは雑草だけ……枝を折らないように……)」

「おいクリス」

エルフの縄張りを歩く上での注意を頭の中で繰り返しなが進むクリスの後ろから、ドミノが呼び掛ける。

「なに? 大事な話じゃないなら落ち着いてから――」

「いいや、大事な話だ。今すぐ話したい」

「……分かった。続けて」

いつになく真剣な声色で続けるドミノに、クリスは真面目な面持ちで応える。

「お前……いつになったらアラークの親父とセックスするんだ?」

クリスは後少しで、足元の水溜まりに顔面から突っ込むところだった。

「ななななに言ってんのよ!! 大事な話だって言ったじゃない!」

顔を真っ赤にして、尻尾を毛羽立たせるクリス。

「だから大事な話だろ。で? いつになったらヤるんだ?」

「そんなの私とアラークの間の個人的な話でしょうが!」

「あのなぁ……最近あいつの様子がおかしいんだよ! 真顔で俺の尻を見つめてきて……俺のケツ安全のためにもとっととあいつの欲求不満を解消してくれよ!」

「心配しすぎよ! いくら溜まってたって男の貴方とエッチするわけないでしょ!」

「お前……聞いてないのか? 親父の奴、サンリスタルに来る前に金欠で散々困った挙句、物好きな貴族のおっさんと――」

「いいから! それ以上聞きたくないっての!」

「思ったより悪くはなかったって――」

「だから黙りなさいってば!」

「『先輩、童貞より先に処女を失うかもね』」

「パル、てめえぶっ殺すぞ!?」

「おい……」

クリス、ドミノ、パルムの三人が前を見ると、眉間に皺を寄せたコレールと、生々しい内容の話に引き気味のエミリアが立っていた。

「ご、ごめんなさいコレール……エルフの縄張りでは静かにするっていう約束だったわね?」

「いや、そうじゃなくて……アラークはどこだ?」

「え?」

クリスが見回すと、確かにコレールの言う通り、アラークの姿が見当たらない。

「さっきまで一緒にいたのに……あいつが迷子になるなんて、考えにくいよな」

「た、大変! すぐに探さないと!」

最悪の事態を想像したクリスは、すぐさま歩いてきた道を戻って、アラークの行方を捜し始めた。

――――――――――――――

「だ、だめだよお姉ちゃん……私たち姉妹で、女の子同士なんだよ……?」

賢者の森の茂みの奥で、一人のエルフの少女がもう一人のエルフの少女に押し倒されていた。

「う、うるさいわね……大体、貴女が可愛すぎるのがいけないのよ……!」

姉妹の姉らしきエルフはそう言って妹の体を優しく愛撫する。

「お、お姉ちゃん……」

妹エルフは未知の感覚に顔を火照らせながら、身もだえする。

「か、覚悟しなさい。もう私無しじゃ生きられない体に――」

ガサッ

「はっ!」

茂みが揺れる音に振り向いた姉エルフが目にしたのは、灰色の髪をした壮年の人間の男の姿だった。

「(うう……まずい……きっとこの男は、私たち姉妹にエッチなことを……)」

「……早続」

「……へ?」

男の口から出てきた不可解な響きの言葉に、姉エルフは奇妙な声をあげてしまった。

「我不邪魔。姉妹百合性交超尊! 我完全勃起! 光景眼刻!」

「お姉ちゃん、何この人……怖い……」

妹エルフがひきつった顔で呟いた直後、男の背後で小さな影が蠢いた。


ガツン!



「ごめんなさいね〜♪ おほほほ……」

男の後頭部を魔杖でガツンと殴った白毛の猫の獣人は、エルフの姉妹が唖然とした表情で見送る中、男を引きずりながら不自然な愛想笑いでその場を離れるのだった。


―――――――――――――――――――

「この大バカ! 敵に襲われたかと思ったじゃないの! 何で寄り道なんかしてんのよ!」

「いや……このご時世、ああゆうのは金払ってもなかなか見れるもんじゃないし……」

クリスはアラークに怒声を浴びせつつも、仲間たちと共に賢者の森の中を進んでいく。

「止まれ。誰かいる」

先頭をいくコレールが皆をその場に静止させると、前方の少し開けた空間
に眼を向けた。


「凄く可愛いよ、ミク……」

「は、恥ずかしいよエリ……」


「また女同士かよ……ここに住むエルフは一体どうなってんだ?」

「いや、よく見ろドミノ。あのカップル……片方は男だ」

コレールに言われたドミノが改めて二人のエルフをじっくりと観察すると、
確かに片方のエルフは女性ものの衣服を身に付けてはいるが、その体つき
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