午後の日差しが差し込むイージス低の書斎で、アルフレッド=イージスは一枚の書簡に目を通していた。
その書簡は、コレールが山賊達の根城で地下牢の鍵を見つけた際に、鍵と一緒に出てきたものだった。
「余所者である君たちには初耳の話かもしれないが」
アルフレッドは、書簡を机の上に放り投げながら溜め息をついた。
「三年前のウィルザード全体会議ーー所謂『ザムール』において、ウィルザード国内での人身売買は禁止されたことになっている。神聖ステンド国での反乱の影響を受けての王の判断だった」
コレールとクリスの二人は、椅子に座ったままアルフレッドの話を黙って聞いていた。
「だが、人というのは君たち魔物娘とは違って、他人の不幸を金に変えたいという欲望からは、簡単には逃れられない生き物だ。この書簡は、その様な類いの輩が、サンタリムで活動していることを示している」
アルフレッドは引き出しから一枚の地図を取り出すと、机の上に広げ、二人によく見えるように、近くに寄るよう指示をした。
「私たちが今いるルフォンはここ……そこから小さな砂漠を挟んで北の方にあるのがサンタリムだ。都市の位置こそ辺境ではあるが、ウィルザードの各地から資源や情報が流れ込む領地で、『砂漠の水晶』とも呼ばれている。ルフォンも厳密にいうと、サンタリムの統治下に属する街だ」
丁寧に切り添えられた口髭を撫でながら話すアルフレッド。
「私は所詮、ルフォンという一つの港町を見守る豪商の一人に過ぎん。守らなければならない家族と部下もいる。だが、もしもサンタリムを奴隷商人の魔の手から救ってくれるというならーー」
「取引成立ですね」
コレールは椅子から立ち上がると、アルフレッドに鱗に覆われた、逞しい右手を差し出した。
「ただ、砂漠を越えるとなると、馬の力では不可能だ。もっと便利な移動手段を確保できれば……」
「何とかしよう。旅の資金も工面しなければな」
「ありがとうございます」
「ちょっと待ってくださイ! 魂の宝玉を集める任務はどうすモガガッ」
話の展開に待ったを掛けようとしたベントをクリスが肉球で押さえ込む。
「(魔王軍としての任務のことはベラベラ喋るなって言ったでしょ! それに苦しんでいる人がいる事実を見て見ぬふりするなんて、出来るわけ無いじゃない!)」
「あぁ……それと貴方の所のお嬢さんについての話なんだが……」
「エミリアの希望については、既に本人の口から聞いてるよ」
アルフレッドはゆっくりと腰を上げると、太陽の光が差し込む窓の側に立って、ルフォンの街並みを一望した。
「エミリアの母親……つまり私の妻は、私に見初められる前は、小規模のキャラバンを組んで、ウィルザードの砂漠と荒野を旅していたそうだ。きっと旅の記憶が、血の繋がりによって、エミリアにも受け継がれているのだろうな」
コレールはアルフレッドに続けさせた。
「エミリアは常日頃から、自分もウィルザードを旅してみたい、外の世界を見てみたいと私に訴えてきた。だが、親心として、あらゆる危険の渦巻く外界に、箱入り娘を放り出したくはなかったんだ。だが子供はいつか、親の元を離れて独り立ちするものだ」
アルフレッドはコレールとクリスの二人に寂しそうな笑顔を向けた。
「君たちは信用できると判断させてもらっても、構わないね?」
コレールは、静かに笑いかけた。
「ついさっき、証明したばかりだ」
書斎の扉の方からガタガタっと大きな音が響き、驚いた三人は一斉に入り口の方を振り向いた。
「お……お父様 ! それなら許してくれるんですね! コレールさん達についていっても良いんですね!」
エミリアがドアを突き破らんばかりの勢いで、書斎に転がり込んできた。聞き耳をたててましたと、白状しているようなものだ。
「わ、わたし! わたし! 毎晩寝る前はお母様から、キャラバンの一員としてウィルザードのいろんな場所を巡った時の話を聞かされて育ったんです! それで、自分もいつか、ウィルザード中を見て回りたいとずっと思ってて! 思ってて!」
「分かったよ! 分かったから少し落ち着きなさいって!」
コレールは嬉しさの余りその場でピョコピョコ跳ね上がるエミリアをどうにか宥めすかそうとした。エミリアがジャンプする度に、彼女の巨大な乳房がバルンバルンと踊るので、クリスの眼からみるみると生気が失われていくのだ。
「わたし! お母様から色んなこと教わっています! 薬草の調合とか! 荒野でも美味しい料理が作れるレシピとか! 絶対にお役に立てると思うんです! よろしくお願いします!」
アルフレッドは鼻息を荒くして捲し立てるエミリアに近寄ると、そのまま両腕で彼女の体をしっかりと抱き締めた。
「エミリア……」
「……お父様……」
エ
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