第31話「民族浄化」

常識的な思考能力を持つ者だったら、こう言うだろう。

(敵地に1人で乗り込むなんて、無謀だコレール。ここは多少のリスクを犯してでも、複数人で行動するべきだ)

そして私はこう言い返す。

(断る。私は一人で行かせてもらう。他人を嬲り殺しにしたくてたまらないって連中の相手は、私が一番お似合いなのさ)

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クァラ族の集落にたどり着いたコレールは、村の中が妙に静かなことに疑問を抱きつつも、内部へと足を踏み入れた。

「(気に入らないな……静かすぎる……)」

コレールは背後を取られないように神経を研ぎ澄ませて、村の中央へと進んでいく。

「(人質はきっとあそこだ……)」

彼女の視線の先には、村の集会などに使われるのであろう、大きな屋敷が佇んでいた。物音はしないが、大勢の人間の気配を感じる。


コレールは後方からの足音に即座に振り向き、振り下ろされた鉄パイプを両手で受け止めると、そのまま体全体でパイプの持ち主ごと、地面に叩きつけた。

襲撃者の手からパイプを奪い取り、腹部に振り下ろそうとするコレール。しかし、違和感の正体に気づいた彼女の動きがピタリと止まる。襲撃者の右足に付けられたドワーフ製の義足に、既視感があったのだ。

「お前……カーティスじゃないか?」

地面に倒された少年も、慌てて顔を覆っていた布を引っ張って、コレールの顔を認識した。

「コレール? どうしてここに……」

思わぬ形での再会に、2人は思わず言葉を失う。

その油断が命取りとなった。気が付いた時には2人は、周囲を武装した兵士たちに囲まれていた。

「くそ……」

「魔王軍の兵士か?」

兵士の一人が尋ねるが、コレールは答えない。

「まぁどっちでもいい。誰であれ俺たちの姿を見た以上、このまま出ていってもらうわけにはいかないからな」

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「報告書……記入者……『デスストーカー部隊』隊長……ヴォード=スレイマン……」

インファラードの特殊部隊は、クァラ族の集落から少し離れたところにある空地に、作戦本部を構えていた。

「新入り。お前がとった行動は人としては正しいことなのかもしれん。だが、兵士としては間違っている」

そう言いながら報告書にペンを走らせているのは、顔面に大きな古傷を走らせている、スキンヘッドの男である。

「あのコボルドは確かに人質の身ではあったが、身の安全は保障されていた。それをお前が浅はかな良心で逃がしたことで、彼女の死はほぼ確実なものとなった」

スレイマンの机の前にあるのは、猿轡を噛まされ、頑丈なロープで椅子に縛り付けられた若い兵士の姿である。

「あの子は集落にいる連れの少年のところに向かうだろう。集落の部下には、侵入者は誰であれ始末するよう指示している。残念だが、今から連絡を入れても手遅れだ。いずれにしても軍紀に背いたお前には、それ相応の処置が下る」

若い兵士の目に絶望の色が広がるが、スレイマンは全く興味を示さなかった。


「こちら本部。何かあったのか?」

スレイマンは机の上の水晶が振動するのを見てペンを置いた。

「うむ……よし、分かった。夜になってからそちらに向かう」

スレイマンは水晶を服の中にしまうと、何事もなかったかのようにペンを取り直し、再び報告書の執筆にとりかかった。

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「スコーピオン」に捉えられたコレールが入れられたのは、魔物避けの結界となる呪いの札を張り付けた杭を、円上に配置した即席の檻だった。単純な作りではあるが、それ故に効果的な代物である。

「カーティス。お前と一緒にいたキャラバンの人たちはどうしたんだ」

「全員捕まった。補給の為に立ち寄った村で、ベルを含めて人質にされてるってわけだ」

捕虜の見張り役を強いられたカーティスは、コレールに背を向けたまま答える。

「約束を守るような連中とは思えないけどな」

「他に選択肢がないからそうしてるだけだ」

カーティスは投げ槍気味に言い放つと、そのまま地面の上に寝転んだ。

「キャラバンの人たちもあんたもベルも、俺みたいな人間に関わるべきじゃなかったんだ。俺の血は呪われているからな」

「呪い? ……うちに詳しいやつが二人もいる。言ってくれれば治せたのに」

「そういう呪いじゃない。……なぁ、迷信深いとか言ってくれるなよ」

カーティスはコレールの方に向き直ると、沈んだ面持ちのまま語り始めた。

「多分俺の先祖に、末代まで祟られるようなことをしでかした奴がいて、その因果が俺の血の中に流れているんだ。そいつが呪いの様に俺から周囲へと伝染していって、親しい人たちも一緒に不幸になる。俺はそう考えている」

話を聞き終え
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