「……っ!!?」
意識を取り戻したアーノルドの目に飛び込んできたのは、金属製の輪のような部品で、手すりに繋がれた自分の左腕だった。
どうやら椅子に座らされた状態で拘束されているらしく、両足首も同様の形で繋がれている。
少し周りの様子を見渡した限りでは、どうやら自分は屋敷のホールに連れ込まれたらしい。
「目を覚ましたか。紅茶をどうぞ、アーノルド=クレイン」
聞こえてきた声の主は、長テーブルの向かいに座っていた。
スキンヘッドに片眼鏡をかけた紳士的な装いの中年男性ではあるが、どこか飢えた狐を髣髴とさせる、不気味な風貌の持ち主である。
「お前が……ジョセフ=ゴーンブラッドか」
「その通りだ。由緒あるゴーンブラッド家の現当主。それよりもまずは紅茶を楽しむと良い。そのためにわざわざ片腕だけ自由にしているのだから」
「ナターシャをどこにやった! 何故彼女たちを傷つけるんだ!」
ゴーンブラッドは、アーノルドの剣幕に眉を顰めながらカップから紅茶を一口啜る。
「彼女は地下にいる……まぁそれはそれとして、君はせっかちな性格のようだから、早速本題に入ることにしよう」
ゴーンブラッドはそう言うと、静かにティーカップを受け皿の上に置いた。
「アーノルド=クレイン。君は私と協力して、デルエラの手からレスカティエを奪い返すのだ」
アーノルドはゴーンブラッドの言っていることが全くもって理解できないといった風な顔をした。
「……なんのために……? お前は主神教団の人間なのか……?」
「勘弁してくれアーノルド。私をあの無能な盲信者共の集まりと一緒にするな」
ゴーンブラッドは椅子から立ち上がると、ゆったりとした足取りでアーノルドの方へと歩み寄っていく。
「誤解しないでほしいのだが、私は決して魔物娘を憎んでいるわけではない。むしろその逆だ。彼女たちは美しく、魅力的で……心身ともに、強い」
ゴーンブラッドは話を続ける。
「だが一つだけ、致命的な欠陥を有している。それは彼女たちがどのような男が相手でも、子を成そうと考えてしまうところだ」
ゴーンブラッドはアーノルドの近くまで迫ってきた。
「魔物娘とは強大な存在だ。だからこそ配偶者は慎重に選ぶべきだと思わないか? 私は魔物娘が旧世界では自然に淘汰されていたはずの、非力で脆弱な人間の血を引いた子供を産みだしている現状に我慢がならないのだよ」
アーノルドの右腕を拘束しているリングに人差し指を這わせる。
「ゴーンブラッド家の歴史とは正に淘汰の歴史だ。産まれた順番に関わらず最も文武に優れた王子だけが当主を継ぐことを許され、その他の兄弟姉妹は、ゴーンブラッドの名を名乗ることすら禁じられた。我々は歴史の裏で暗躍し、戦争や疫病、飢饉という形で生きるに値しない者を間引いていき、限られた資源が優れた人間のみに行き渡るようにしてきた。レスカティエのノースクリムに近づいたのも、当時のレスカティエの社会構造が、我々の望む世界の構造に近いものであり、その支配を盤石な物とするためだった。目先の利益に群がる貴族とは一線を画していたのだ」
ゴーンブラッドは自身の人差し指をアーノルドの額に押し付けた。
「私は軍隊を構築している。余計な感情を持たず、魔物娘の誘惑に屈しない機工兵。ゾーイ博士が改造した銃。そこに伝説の『白き竜』の力が加われば、近いうちに必ずやデルエラの手からレスカティエを奪うことが出来るだろう。レスカティエはゴーンブラッドの名のもとに生まれ変わり、いずれは大陸を統一するほど巨大な国家へと――」
「もういい」
「……何?」
ゴーンブラッドは信じられないといった表情でアーノルドの顔を覗き込む。
「私はお前の計画に協力するつもりはない。お前の妄言をこれ以上聞かされるのもごめんだ」
ゴーンブラッドは雷に打たれたような顔をしていたが、やがて軽く肩をすくめると右手を振って合図をした。
「そうか……それでは、『白き竜』の伝説はここで終わりだな」
ホールより高所のスペースであるギャラリーから、2台の「大砲」がアーノルドに照準を向ける。
「空気中の魔力を一点に収束して、爆発的なエネルギー光線を放つ兵器だ。その威力は経験済みだろう?」
アーノルドは静かに目を閉じ、まもなく訪れるであろう最期の瞬間に向けて、心の準備を整えた。
「(どうやら、ここまでのようだな)」
「さよならだ。『白き竜』よ」
屋敷内に雷鳴が轟き、アーノルドは頬に切り裂くような勢いの爆風が当たるのを感じた。
「……?」
しばらくしてアーノルドは、未だに自分の肉体がこの世に存在しているという感覚に違和感を感じた。状況を確かめるためにうっすらと目を開けていく。
そして、眼前の状況を確かめた瞬間、彼
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