――僕がここに閉じ込められてから、どれ程の時が流れたのだろうか。
――恐らく、僕を封印した人間たちもとっくに天寿を全うし、誰も僕のことを覚えていないだろう。
――きっと僕はこのまま外に出ることも死ぬこともできず、永遠の時間を孤独に過ごすことになる。
――そう、何の喜びも悲しみも、苦しみさえも感じられない凍りついた時の中で、まるで眠っているかのように永遠に――
ガキンッ!
「(うわっ、ビックリした!)」
「たいちょー! このでっかいクリスタル、中に人がいます!」
―――――――――――――――――
――レスカティエ古代遺跡研究所。
「まさか本当にあの伝説の勇者が発掘されるだなんて驚いたわナターシャ。」
研究所の廊下をバフォメットと共に歩くのは、落ち着いた雰囲気を醸し出す魔界軍師のサキュバスだった。
「ドワーフたちが儂らの調査団の発掘作業に協力してくれたおかげじゃよヴァレンティナ。今頃研究室では魔女たちがクリスタルの研究を進めているところじゃな」
ナターシャと呼ばれた栗色の髪のバフォメットが得意げに微笑む。
「おい、お主ら! 魔界軍師のお目見えじゃ――」
「ああんっ! 雄っぱいでかすぎだよぉ……たくましい……
#9829;(クチュクチュ)」
「お尻も引き締まってセクシー……あたしのお兄ちゃんになってぇ……
#9829;(クチュクチュ)」
「……って何をしておるのじゃこの馬鹿チンどもーー!!」
研究室の扉を勢いよく開けたナターシャが目にしたのは、巨大なクリスタルの中に閉じ込められた青年の肉体をオカズにして、自慰に励む魔女たちの姿だった。
おまけに、その近くではドワーフが巨大なつるはしを持って、精密装置にはめ込まれたクリスタルを容赦なく殴り続けている。
「えいえい! うーん割れないなあ」
「おいよさんか! 中に人がおるのじゃぞ!」
「だってー。こうやってぶち割るのが一番手っ取り早いじゃないのぉ?」
配下たちを叱りつけているナターシャを尻目にして、ヴァレンティナは装置の上に鎮座する巨大なクリスタル――その中に封印された青年の姿を仰ぎ見た。
「『アーノルド=クレイン』……かつて『白き竜』と呼ばれた貴方は、この新しい時代に何を見出し、何をもたらすのかしら……?」
その時研究室に、地震のような自然現象とは明らかに異なる、大きな揺れが襲い掛かった。
「……ナターシャ」
「分かっておる。主神教団もあの古代遺跡に目を付けていたからのう」
ナターシャはそう言うと、懐から2本の魔法陣が刻まれた柄のようなものを取り出した。
「来るわよ……みんな、下がって!」
ヴァレンティナの合図とほぼ同時に、研究室の壁が轟音を立てて切り崩される。その向こうから紺色を基調とした荘厳な鎧に身を包んだ、ダイヤモンドのように輝く長髪の女性が姿を現した。
「ヴァルキリーがたったの1人か……舐められたものじゃのう!」
ナターシャの体から青白い雷光が迸り、握りしめた2本の柄に雷の魔力で斧刃が形成されていく。好戦的な笑みを浮かべる彼女の栗色の髪の毛もまた、雷の魔力に反応して青白く染まっていった。
ヴァルキリーはナターシャの姿を捕らえると、常人の眼には捕らえられない速度で突進して躊躇なく聖剣を振り下ろす。ナターシャはその刃を2本の雷斧を交差して受け止めた。
「ふん!」
ナターシャは青白い火花と共にヴァルキリーの剣を押し切って相手の体勢を崩すと、右手の雷斧を振り払って聖剣を床に叩き落す。しかしヴァルキリーは少しも怯まずに主神の紋章が刻まれた盾を振りかぶり、その勢いでナターシャの体を壁に叩きつけた。
「伝説の『白き竜』よ……今こそ目を覚まし、世界を覆う闇を振り払う時が来た」
「みんな、伏せて!」
ヴァレンティナの指示通りに頭を抱えて床に伏せた魔女たちの頭上を、ヴァルキリーが投擲した聖剣が通り過ぎていく。そして聖剣は真っ直ぐに青年が閉じ込められたクリスタルに突き刺さり、白い光を放ち始めた。
「クリスタルが……崩壊する!」
ヴァレンティナが目にしたのは、聖剣が作り出したひび割れが光を放ちつつクリスタル全体に広がっていき、中にいた1人の男がゆっくりと瞼を空ける姿だった。
やがて聖剣が光を放つのを止めて床に落ちた時、研究室にいる全員が伝説の勇者の復活を目の当たりにした。
「ここは……?」
ぼろきれのような衣服をまとった伝説の勇者は、鍛え上げられた肉体に、黒髪と強い意志を秘めたヘーゼルの瞳が印象的な青年だった。
彼の足元で聖剣が独りでに動き出し、そのまま宙を進んでヴァルキリーの手の中に納まる。
「とうとう目覚めたか……白き竜よ」
ヴァルキリーはそう呟くと、先ほどよりも激しい魔力を迸らせて立ち上がっ
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