第30話「救難信号」

サンリスタルを出発したコレールたち一行が次に目指しているのは、「賢者の森」と呼ばれるウィルザードで唯一にして最大の森林地帯だった。

賢者の森には魔王の代替わりより更に古い時代からエルフたちが住んでおり、ヴィンセントたちが調べたところによると、「魂の宝玉」の起源もそこに在るのだという。

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「ふぅ……やっぱりこの時間帯は相当暑いな……」

コレールはそう呟くとタオルで頬に滴る汗を拭き取り、手に持ったケバブ――サンリスタルで調達した、ヨーグルトなどで味付けした鶏肉とサラダを、パンで挟んだ携帯食である――を豪快に頬張った。その横では、既に三人前のケバブを平らげたエミリアが、パルムの小さな肩に寄りかかり、すうすうと寝息を立てている。

賢者の森が近くなるにつれ、これまでは岩と砂ばかりだった旅の景色にも、ようやく草木の賑やかさが現れ始めていた。俗に「サバンナ」と呼ばれるこの草原地帯を渡る途中で、コレールたちは昼休憩をとっていた。

「本当にやだわぁ、よりにもよって罪もない女の子を手籠めにするために、私の魂が使われるところだったなんて。何百年経っても男って、そういう生き物なのね」

「マダム・リンキング。君を襲った災難には同情するが、その手の愚痴を私の耳元で話すのは礼儀にかけているといわざるを得ないな」

「あらやだ。貴方にも私にも、もう耳なんてないじゃない」

「言葉の綾だ!」

彼女たちの側ではヘリックスと、ハースハートで砂の王冠から解放されたリンキング――正確に言うと、彼らの魂が封じ込められた2つの宝玉――が頑丈な革袋の中でおしゃべりをしている。

コレールが汗でびちゃびちゃになったタオルを放り投げると、パルムはすかさずそれをキャッチして、ちらちらとコレールの顔色を窺いながら首に巻く。
それを見たコレールは満更でもなさそうに、苦笑いを浮かべるのであった。

――――――

「ふう……これだけあれば十分よね」

コレールたちのいる場所から少し離れたところにあるオアシスで、クリスは荷車に積める分だけの水瓶に水を溜め込んでいた。サバンナを渡る旅人にとって、飲み水は生命線と言っても過言ではないだろう。

「アラーク、こっちも終わったわよ!」

「まぁそう焦るなクリス。どうせすぐには出発はしないんだ」

クリスと同じように水瓶をいっぱいにしていたアラークはそう言って靴と靴下を脱ぎ捨てると、そのまま爪先を慎重にオアシスの泉の中へと差し込んでいく。

「おっ、冷たくて気持ちいな……さぁ、君も来てみろよ」

「……もう、しょうがないわね!」

クリスは呆れつつも嬉しそうな笑みを浮かべてアラークに倣い、靴を脱ぎ捨て冷たい泉の中へと足を踏み入れる。

「そらっ、こいつはどうだ?」

アラークが泉の水面を足で蹴り、冷たい水しぶきをクリスに浴びせる。

「きゃっ、やったわね!」

クリスは笑いながら水面を掬って、アラークに水しぶきを浴びせ返した。

「おっと、やってくれたな?」

「あはっ、悔しかったら捕まえてみなさいよ♪」

クリスとアラークはしばらくの間、泉の中で子供のように追いかけっこをしてはしゃぎまわっていた。

「きゃっ!」

水底の泥に足を取られて転びそうになったクリスの腕を咄嗟に
掴み、彼女の転倒を阻止するアラーク。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう……」

クリスが甘える子猫のような目でアラークの顔を見つめると、アラークは優しく微笑んでクリスの体を抱き寄せる。

しばらくの間無言で見つめあった後、どちらからというでもなく、ゆっくりと上気した顔を寄せていく。

そして、恋という名の炎に燃え上がった男と女の唇は、太陽が見守る下で静かに重な――




ジョボボボボボボボボボボ……


すかさず二人が振り向いた先では、ドミノ=ティッツァーノが惜し気もなく「モノ」を晒し、泉に向かって豪快に放尿する光景が繰り広げられていた。

「あ〜……漏れるかと思ったぜ全く……あ? 何やってんだお前ら? 水汲み終わったんなら早く皆のとこに戻れよ」

―――――――

「むにゃ……あれ? ドミノさんは何処ですかぁ?」

「ドミノならお腹の調子が悪いみたいよ。用を足してから戻るって言ってたわ」

「……?」

一切の感情が見られない表情で返事をするクリスの様子に、事情を知らないエミリアは首をかしげるのであった。

―――――――

「ドミノの奴、どんだけ長いう○こしてるんだ……ちょっとオアシスの方を見てくる」

ケバブを食べ終えて腰を上げると同時に、コレールの背後――南の方の空にピンク色の花火が打ちあがった。

「コレール、あれは……!」

青空に桃色の花を咲かせた花火を目にしたクリスの顔が、急に険しいものへと豹変する。

「みんな、
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