第3話「突入」

「おい」

「ああ?」

「誰かに見られてる気がしないか?」

「気のせいだろ」

「だよなぁ……」

「疲れてんだよ。もう少ししたら見張りを代わってもらえ」






ルフォンの中心街から南に4キロほど離れた、放棄された砦の入り口で、二人の見張りがぼそぼそと話し込んでいる。

見張りの片方が抱いた違和感は錯覚などではなく、実際に二人の魔物娘が少し離れたところから砦の様子を伺っているのだが、夜の闇と岩場が作る影が、コレールとクリスの姿を包み込んで隠していた。

「場所はここで間違いないよな?」

「ええ。でも、入り口が一つしかないわ。こっそり忍び込むのは難しそうね」

コレールは、数時間前に教会でシオンから聞いた仕事の内容を思い出していた。


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「(アルフレッドの旦那の一人娘が誘拐されただって?)」

「(はい。名前はエミリアで、種族はゴブリン、見た目の年齢は10歳前後です。これがお嬢様の顔写真です)」

「(身代金の要求は?)」

「(ありません。このことから、恐らく人身売買目的の誘拐と思われます)」

「(人身売買……)」

「(ウィルザードでは今の時代でも珍しく無いのです。無論、魔物娘が一枚噛んでいるものとは違って、売られた女は家畜以下の存在として扱われます)」

「(衛兵は助けてくれないのか?)」

「(ルフォンとその周辺地域の衛兵があまり役に立たないことは、公然の秘密ですので)」

「(分かる気がするよ)」

「(どうかお願い致します。奥様の方はお嬢様の安否が心配で寝込んでしまっているのです)」

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ーー同時刻、砦の中。

「おいニック、騙しやがったな!」

地下牢に繋がる落とし戸から這い出てきた山賊の一人が、憤慨した様子で仲間に吠えたてた。

「何の話だ?」

「今地下牢に閉じ込めてる商品の話だよ! 上物だって言ってたのに、小便臭いガキじゃねえか!」

「趣味に合わなかったか?」

「当たり前だこのアホ! たっく馬鹿馬鹿しい……」

「無暗に手をだすなよ。顧客は健康な娘を望んでいるんだ」

椅子に座っていた別の仲間が口を挟んだ途端、広間に繋がる通路の奥から、入り口の扉を叩く音が鳴り響いた。

「誰だ!!」

広間の山賊達が一斉に身構えると、外からはっきりとした軽快な声が届いてきた。

「こんばんは!『ペパロニたっぷりごちそうピザ』のお届けに上がりました!」

山賊達は顔を見合わせた。

「どこの馬鹿がこんな時間にピザなんか頼みやがったんだ……」

山賊の一人が呆れた様子で入口へと繋がる通路を進んでいく。

「おい……なんだお前だれオゴボッ!?」

入り口の扉が開け放たれた音と同時に、ゴスッ、ゴスッという鈍い音が2回ほど響き、静かになった。

山賊達が固まっていると、広間に気絶した仲間を引きずりながら、大柄なリザードマンが姿を現した。

「だ、誰だてめぇは!」

「ピザ屋だよこのボケ共!」

コレールが引きずってきた山賊の一人を連中に向かってぶん投げると、何人かがもんどりうって倒れこむ。

その隙を突いて、慌てて剣を抜き出そうとした男に向かってドロップキックを放つと、壁に叩きつけられた男は潰れたような声を出して動かなくなった。

すかさず起き上がり、別の男の腕を掴むと、関節を曲がってはいけない方向に思いっ切り曲げることでへし折る。背後から斬りかかってきた男の腹に全力の蹴りを叩き込むと、その男は吐瀉物を撒き散らしながら転げ回った。

「ああ、なんて酷いことを! 犯罪者である彼らも人の子でありィ! 家族がいてェ! 幸福な生き方を目指す権利がァ!」

「おい、ベント。それ本気で言ってるのか?」

「冗談に決まってるでしょウ! さぁ、全員叩きのめしておやんなさイ!」

ベントは興奮した様子でコレールに言い放った。

「コレール、危ない!」

下階の異変に気がついた山賊の仲間達が急いで階段を駆け降りてくる。その動きに気がついたクリスが青く輝く閃光を階段に向けて放つと、階段は一瞬でツルツルの氷の膜に覆われ、男達は滑った勢いのまま下まで転げ落ち、クシャクシャになってしまった。





「お前らのリーダーはどこだ!」


「う……上の階の……部屋にいる……」

クリスとの連携で全員を戦闘不能に追いやったコレールは、のした山賊の一人を尋問すると、凍結が解除された階段を上って山賊の頭の陣取る部屋へと向かった。

かつて軍の司令官が使っていたであろう部屋には鍵がかかっていたが、コレールが全体重をかけて木製の扉に体当たりをすると、蝶番が弾け飛ぶと同時に開通した。

「くそ! イージスの回し者か! 近寄るんじゃねえ!」

山賊の頭は動揺した様子で押し入ってきたコレールに弓を向け
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