ヴィニー探偵事務所から少し離れた路地裏で、ドミノは冷や汗を垂らしながらコレールに弁解をしていた。
「なぁ、ボス。聞いてくれ。オニモッドの意識が出てる間は、俺の意識は眠ってるんだよ。だからホワイトパレスでのことは、何も覚えちゃいないんだ。本当だって」
「そんなことは想像つくよ。いいからオニモッドを呼びな」
「……へ?」
「聞こえなかったか? オニモッドを出せって言ってるんだ」
コレールの有無を言わさぬ物言いに、ドミノは慌てて耳を塞ぎ、オニモッドの意識との交信を始めた。
「……駄目だ、ボス」
「どういうことだ?」
「オニモッドの奴、こっちから呼び掛けても全く反応してこない。要するにあんたと話をするつもりはないってことだな」
コレールは無言でドミノの前に立ちはだかると、瞳の奥に静かな怒りの炎を宿しながら口を開いた。
「奴が出てくるつもりはなくても、お前の意識が起きている間はオニモッドも話を聞いてるんだな?」
「えーと、まぁ、そんな感じだ」
コレールは大きく息を吐くと、ドミノに向かって確かな怒りを込めた言葉で、行き過ぎた復讐の扇動に対する非難を始めた。
「ステンド国には魔物娘の工作員が入り込んでいた。お前が何もしなくても、奴隷たちは解放されたんだ。なのに、お前は奴隷たちの憎悪を煽り立てて、無関係な人々の命まで奪い去った」
「…………」
「必要な犠牲だったとでもいうのか? ヴィンセントに向かって、『無関係なあんたの姉を死に追いやったのは自分だけど、仕方の無いことだったんだ。許してくれよ』と言い切れるのか? あいつの目の前で?」
「……おい、ボス」
「大切な人の命が自分の知らない所で奪われることの恐怖を想像できないのか? 何十人も殺す前に少し立ち止まって、自分がやろうとしていることについて、考えたことなんて、一度もないと?」
「なぁ、ちょっとーー」
「お前はーー」
「つべこべ言うなこのクソアマッ!!」
突如として怒鳴り声をあげたドミノの顔面には、見覚えのある蝋化した死体のような皮膚が侵食していた。しかし、その模様は現れたのと同じくらい急速に引っ込んでいた。
「あぁ……いや、その……悪かった。今のは失言だ」
ドミノはばつが悪そうに咳払いをしてから、今度はコレールの目をしっかり見据え、毅然とした態度で口を開いた。
「ボス。確かに俺とオニモッドは殺す必要の無い人々まで死なせてしまった。悲劇と言えるだろうな。でもな、全ての根源は罪の無い人々を虐げて、奴隷として扱った連中にあるってことを忘れないでくれ。罪の無い人々の死の責任を負うべきなのは、そういう人たちの身に危険が及ぶことすら考えなかった、ステンド王国の上層部の連中だ」
ドミノはそこまで話終えると一瞬躊躇するような表情を見せたが、すぐに意を決したような眼差しを取り戻して、再び口を開いた。
「正直言って……俺たちが殺してきた人々の中に、どれだけ『根はまとも』な人間がいたとしても、俺の知ったことじゃない。そんなこといちいち気にしてたら、復讐屋なんてやっていけねえよ……ヴィンセントのダチの件だって似たようなもんさ」
不機嫌な狼の如く、唸り声をあげるドミノ。
「心理学者は『集団心理』だとか『パニック状態』とかそれらしい言葉で説明したがるだろうが、要するにヴィンセントのダチには、『か弱い女性を無理やり犯したがる素質』があったっていうだけの話だって思わないか? そんなクズが尻に剣をぶっ刺されて、苦しみ抜いて死んだところで、誰も罪悪感を抱く必要なんて無いんだ。正直言って俺には、ヴィンセントがそいつのことで悪夢を見るまで追い詰められる神経が理解できねえよ」
ドミノの主張を聞き終えたコレールは口を開こうとしたが、それより先にドミノが彼女に向かって「静かに!」のジェスチャーを行った。
「表道の方が騒がしくないか? 向こうで何かあったのかな?」
「……見に行こう」
コレールはドミノを連れて騒ぎの原因を確認しに行こうとして、丁度事務所から飛び出したヴィンセントの体にもろにぶつかってしまった。
「おい、なんだ! ……あぁコレール、あんたか」
「表の通りの方で何かあったらしい。少し様子を見てくるよ」
「いいや、あんたもドミノも俺の事務所で待っていてくれ。俺一人で行ってくる」
ヴィンセントが言うには、コレールたちのような余所者がスラムでの騒ぎにいちいち首を突っ込むと、事態がややこしくなってしまうとのことだった。
バトリークの所から救い出してくれた義理があるからこそ、これ以上バトリークや、スラムのギャングに目をつけられてほしくないらしい。
「あのじいさんとエルフにも事務所で待つように言ってある。ここは俺に任せてくれ」
そういい終えるが早いか、ヴィンセ
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