コレールたちがヴィンセント=マーロウの救出に向かっている間、残りの四人は必然的にヴィンセントの事務所で留守番を任されていた。
そして、退屈を持て余した人間、特に男が集まると、大抵ろくでもないことを始めるものである。
「なぁ親父ィ……暇だからお人形遊びでもしようぜ……」
「いいぜ……」
ドミノはアラークの返答を聞くと、懐から小さな女の子の人形と子犬の人形を取り出した。
「よし。じゃあ俺はサリーちゃんの役をやるから、親父は犬の役をやってくれ」
「あぁ、任せろ」
ドミノは子犬の人形をアラークに渡すと、早速机の上で「サリーちゃん」に扮した人形に台詞を当て始めた。
「ルンルン♪ 今日はいい天気♪ 絶好のお散歩日和だわ♪」
「ワンワン!」
「あら! 可愛い子犬ちゃん! ほらほら、こっちにおいで♪」
「クゥーン……」
「んっほぉぉぉぉぉぉっっっ!!! 犬チンポぎっもちぃぃぃぃぃっっっ!!! 獣姦セックシュでいっぐうぅぅぅぅっっっっっ!!!」
「おらぁ! もっと良い声で鳴けやこの雌豚がぁ! ……ワンワン!」
「やめてくださいっ!!」
エミリアが豪快に胸を揺らして放ったハリセンアタックが、二人の頭を直撃する。
「コレールさんもクリスさんもいないからって羽目外しすぎです! 子供も見てるんですよ!」
「……すみません……」
テーブルに突っ伏しながら二人の駄目男が弱々しい声で呟く。幼い魔物の少女に折檻を受ける彼らの姿を見て、パルムはこういう大人には絶対になるまいと決意した。
「どうやら、うちの事務所に騒がしい連中が居座ってるようだな」
時をほぼ同じくして、探偵事務所の主であるヴィンセントが、三日ぶりに自分の城へと足を踏み入れた。無論、コレール、クリス、カナリの三人の魔物娘たちも一緒である。
「この人たちはコレールの仲間だよ、ヴィニー。皆、彼がヴィンセント=マーロウーー」
「わぁ、初めまして! エミリア=イージスです!」
ヴィンセントの姿を目にしたエミリアが、星屑を散りばめたかのように目を輝かせながら、彼の元へと駆け寄る。
「あの、『探偵ポールの事件簿』って知ってますか!? 私、あの小説の大ファンで、探偵っていう職業に凄く憧れてるんです! このトレンチコートってどこで売ってるものですか? 物を深く考える時ってやっぱりパイプとか吸いますか?」
実際エミリアはその純朴で騙されやすい性格故に、特に幼い頃は、護衛無しに外を歩き回る様な機会は限られていた。そんな彼女にとっての最大の楽しみは、クールな名探偵が難事件の謎を解き明かしていく、娯楽小説だったのだ。
「あー、その……まぁ、そんな感じだな」
憧れの存在を前にしたエミリアがピョコピョコ跳ねる度に、その小柄な体には不釣り合いな巨乳がだぷんだぷんと大きく揺れる。
その迫力のある光景に、ヴィンセントの方も流石に動揺を隠せなかった。
そして、カナリの表情をちらりと見た探偵は、その動揺を完全に見透かされていることを察した。
「ほらヴィニー、疲れてるだろ? 一旦椅子に座った方が良い。ほらほら、服も脱いで」
明らかに機嫌を損ねた様子で、ヴィンセントを奥にある書斎机の方に引っ張っていくカナリ。
ヴィンセントはされるがままに帽子も上着も取り上げられ、そのままほぼ強制的に、椅子に座らされたのだった。
帽子を脱いだことで、ヴィンセント=マーロウの顔つきがよく分かるようになった。寂れた色の茶髪には所々白髪が混じっており、顔面に刻まれた皺からは、教会の地下牢で初めて会ったときよりも、更に年老いている印象を受ける。しかし、若い頃につけられたのだろう唇の端の傷跡や、猛禽類を思わせるグレーの瞳が、この男を見くびるべきではない存在であるという事実を、雄弁に語っていた。
「おいおい……待てカナリ。何をしているんだ」
ヴィンセントを座らせるや否や、カナリはコレールたちの目も憚らず、彼の首筋に鼻をくっつけてクンクンと臭いを嗅ぎ始めた。
「ヴィニー……体臭がけっこうキツイじゃないか。もしかして、風呂に入っていないのかい?」
「当たり前だ! 連中がわざわざ俺を風呂に入れてくれるとでも思うか!?」
コレール達が揃って目を皿の様にして、自分らを見つめていることに気付くと、ヴィンセントは慌ててカナリの顔を首筋から引き剥がそうとした。
「おい、探偵のおっさん。うちのボスから俺たちの目的は聞いてんだろ?」
見るからに虫の居所の悪いドミノが、ヴィンセントの座っている机の上に足を乗っけて、チンピラの様な勢いで問い質す。
「俺たちはアンタに辿り着くまで相当な苦労を費やしたんだ。今更何も知らないなんて言わないよな?」
「あぁ、勿論だとも。カナリ。本棚から『砂の王冠』に関する資料を持
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