「クリス! 最後に会ってから一ヶ月も経ってないのにまた一段と綺麗になったな! 嗚呼、まるでウィルザードの砂漠に咲く一輪の花の様な美しさだ。初恋のときめきが、数十年の時を越えて、私の胸の中に戻ってきた気分だ……」
「……」
アラークの渾身のご機嫌取りにも口をつぐんだままのクリスを見て、コレールは苦笑いを浮かべながらドミノの肩に手をやった。
「ドミノ。お前の方からも何とかフォローしてやってくれないか」
「フォローたって、どんな言い方すりゃいいんだよ」
「それは……まぁ、お前のセンスに任せるよ」
ドミノは溜め息をつくと、アラークに対して顔を背けたままのクリスの肩を叩いて、口を開いた。
「おいクリス! 発情期に何本くわえ込んだかわからない腐れ中古×××の分際であんまり調子に乗ると、承知しねえぞこのアバズレ獣(けだもの)×ッチ! ……ってボスが言ってたぜ」
「お前に任せた私が馬鹿だったよ!!」
コレールはドミノの腰を後ろから抱え込むと、そのまま勢いよく体を反らして、見事なバックドロップを決めた。
「……行きましょ、エミィ。その図書館とやらへ」
「あ、あの、クリスさん……」
クリスは後頭部を地面に強打してひっくり返った、間抜けな格好のドミノに、ナマコか何かを見るような目を向けてから、エミリアの手を取った。
その後を、困った表情のアラークが続いていく。
コレールはドミノの足首を掴むと、そのまま地面に彼の体を引き摺りながら、空いている手でパルムと手を繋いで歩き始めた。
「一応言っとくけど、クリスは私と同じで生娘だよ、ドミノ」
「やっぱり? 性格キツいもんな。……それより、引き摺るのめっちゃ痛いから勘弁して欲しいんすけど」
「私の親友を腐れ×××呼ばわりした罰だ」
「(……やべぇ、かなり怒ってる。ここは黙って引き摺られてよう)」
ーーーーーーーー
ハースハート中央図書館は、領主がヴァンパイアに取って代わられてから建設された、ハースハートで唯一最大の図書館である。
「全ての人魔に教養を」
このスローガンの元に建てられた施設には、子供向けの絵本から古代の伝説を記した歴史書まで、あらゆる時代と地域に関する資料が保管されており、それら全てに目を通すことが許されている。勿論、入場料は無料である。
「(ウィルザードの古い伝説に関する本が殆ど貸し出されてる……カナリが持っていったのね)」
頭の中で考えながらふと視線を読書用の机に移したクリスの目に、大きな図鑑を広げてパルムに何かを教えているドミノの姿が入ってきた。
「ここが小陰唇で、ここが陰核……俗にいうクリトリスだな。そしてここがーー」
そこまで聞いたクリスはドミノの背後にツカツカと歩み寄って、彼の頭に猫パンチを喰らわせた。
「いてぇ! 何しやがるこのアマ!」
「子供に何を教えてんのよこの変態!」
「じゃああれは良いってのかよ!?」
ドミノが舌打ちをして指差した方向に目を向けると、アラークが同じように図鑑を広げて、酷く赤面したエミリアに何かを教えていた。
「これが亀頭、ここが包皮小体で、これは陰のうだ……」
「〜〜〜〜!!!」
クリスは声にならない怒号をあげると、アラークの背後から杖を持った腕を彼の首に回して、そのままグイグイと締め上げ始める。
「馬鹿! スケベ! エロオヤジ! スケコマシ!」
「ま、待ってくれクリス……これは適切な年齢に応じた性教育であってだな……決して彼女の反応を見て楽しんでいた訳では……」
「あの二人何してんだ?」
「さぁな。よし、パルム。次は房中術についての本を探しにいくぞ」
ドミノは図書館での聞き込みを終えて仲間の所に戻ってきたコレールにそう言うと、パルムを書棚の陰へと連れていった。
「この、このぉ……」
「お止めなさい。図書館ではお静かに」
「ふぇ?」
アラークの首を魔杖で責めていたクリスは、いきなり背後から伸びてきた腕に杖を取り上げられる。
「これは危険物として預からせて貰います。退館時には言ってくれれば返却しますので、お忘れの無いように」
クリスから杖を取り上げたのは、両方のこめかみから角を生やし、眼鏡をかけたスタイルの良い獣人の女性だった。霧の大陸から来た博識の徒ーー「白澤」である。
「あ、あの、ちょっと……」
どうにか言い訳を考えてお茶を濁そうとするクリス。魂の宝玉を嵌め込んである杖を一時的とはいえ他人の管理下に置いておきたくはないが、原因が自分にあるだけに言葉選びに苦慮しているようだった。
その様子を見たアラークは白澤の女性の進路上に回り込んだかと思うと、素早い動作で彼女を壁際まで追い込み、右手で壁をドンと突くことで、彼女の進路を塞いでしまった。
「えっ、なっ、何を……?
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