ハースハート。
ヴァンパイアの領主が治めるこの都市国家は、帝都に次ぐ広大な敷地と人口を擁しており、特に近年では目覚ましいほどの発展を遂げている。ウィルザードでは「第二の帝都」と呼ぶ者も少なくない。
そのハースハートの中心部、人魔問わず賑やかに行き交う街道を、風変わりな集団が歩いていた。
先頭を行くのは褐色肌に魅力的な曲線美が眩しい、よれよれのコートを着た大柄のリザードマンだ。その横を、新雪の様に白い毛並みに、オッドアイのケット・シーが歩いている。その後ろには、ボサボサの髪に華奢な体つきで、黒を基調としたパンクな服装に身を纏う、猫背の青年が続いている。彼の横にいるのは、小さな体には些か不釣り合いな豊満な胸と、安産型の尻を持った、栗色の髪の毛のホブゴブリンの少女である。少し天然そうな彼女の後ろで、ホブゴブリンの少女より更に背の低いエルフの少年が、耳をピクピクさせながら殿を努めていた。
街中を悠々と歩く彼らを見たハースハートの住民たちは、早速この余所者たちの第一印象を仲間内で語り始めた。
「おい、あれがサンリスタルで女王相手に大暴れしたって言う……」
「ああ、間違いない。確かに美人だけど滅茶苦茶強そうだ。……剣は持ってないのかな?」
コレールの姿を見た二人の男性が神妙な面持ちで話し合う。
「あの目……ジパングでは『金目銀目』といって、縁起が良いんだニャ。羨ましいニャア……」
「俺にとってはお前の目の色の方が素敵だし、縁起が良いさ」
「ニャア……
#9829;」
クリスの姿を眺めていたスフィンクスは、幸せそうな顔をして男の胸に顔を擦り寄せた。
「バフォ様! しっかりしてください! 誰か、至急担架を!」
エミリアの巨大な胸の存在感に耐えきれず、泡を吹いて引っくり返ってしまったバフォメットを、連れの魔女が慌てて介抱している。
「ねぇ、エルフの男の子よ! ちっちゃくて可愛い……!」
「エルフの男の子って珍しいのよね……ああもぅ、ぐるぐる巻きにしたい!」
デーモンとラミアの二人組がパルムを指差してきゃぁきゃあと騒いでいる。
「あいつも奴隷解放の英雄の一人なのか? そのわりには随分陰険な面してんなぁ」
「待てやゴルアァァァァァ!!!」
ドミノは自分の姿を見てボソリと呟いた男に向かって全力で走り寄ると、男の喉にナイフを突き付けた。
「てめえ……誰がクソ陰険猫背醜男だって? 随分面白いこと言ってくれるじゃねぇか。その舌切り取って一生喋れないようにしてやろうか?」
「そ、そこまで酷いことは言ってない……」
「止めろ、ドミノ
#8252;」
コレールの目がギラリと光を帯びたのを見たドミノは、舌を打ちながらも男の喉からナイフを離して、彼女の元へと戻っていった。
「たっく……なんで俺だけが陰口叩かれなけりゃなんねえんだ……男は中身だってのに」
「貴方が酷いのは、その中身の方でしょ……」
「あぁ!?」
ドミノがクリスと口喧嘩をおっ始めなかったのは、丁度そのタイミングでカナリの家の前に到着したからだった。
「カナリがくれた地図によると、この家で間違いないはずだ」
コレールはそう言うと、レンガ造りの素朴な家の扉を三回程ノックした。
「……家には居ないみたいだな」
「あの魔物娘に用があるのかい?」
コレールたちが振り向くと、腰の曲がった気難しそうな顔の老婆が、箒を持って佇んでいた。
「あの娘ならここ3日位家には帰ってきてないよ」
老婆はそれだけ言うと、コレールが質問をする前に隣の家の中へと戻っていってしまった。
「しばらく家に帰ってきてないのか……エミィ、ちょっとそこに立ってくれないか?」
コレールは自分の手元が道の方から死角になる位置にエミリアを立たせると、拳の一撃で扉の鍵を破壊した。
「ちょっと、コレール!」
「家の中でぶっ倒れているっていう可能性もあるだろ? とにかく、カナリが何処に行ったのか手掛かりを探そう」
悪びれもせずに扉を開けてカナリの家へと足を踏み入れるコレール。
「俺、ボスのそういうところが好きなんだよ……よし、パルム! 手始めに下着入れで手掛かりを探すぞ!」
[了解]
いやらしい笑みを浮かべながら室内の物色を始めるドミノの後頭部に、クリスは槍投げの要領で魔杖をぶん投げた。
「ぐおぉぉ! 頭が割れそうだ!」
「私は全身が割れてしまいそうでス!」
床を転げ回って悶絶するドミノとベントを尻目に、コレールはテーブルの上に置かれた新聞を手に取った。
「『ニュース・オブ・ウィルザード』、発行者、カナリ=ジナー……そう言えばあいつ、自分のことをジャーナリストだと名乗ってたな」
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『ハースハートの犯罪率、三倍に増加。Mr.スマイリーの行動沈静化
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