魔物は変わった。
新たな魔王となったサキュバスの魔力の影響により、魔物が人の命を奪う時代は終わりを告げた。
魔物は魔物娘となり、美しく、そして魅力的な姿へと変貌した。
だが、人間はどうだろうか。魔物の様に、変わったのだろうか。
変わりはしない。いつの時代も、人のやることは同じだ。
人間は、変わらない。
「コレール!」
ケット・シーの少女の呼ぶ声によって、リザードマンのコレールは現実へと意識を引き戻された。
「そんなにボーっとしてると、また変な輩に絡まれちゃうわよ!」
「ん……そうだな」
彼女達が今いるのは、中央大陸からあらゆる物資や人が運び込まれるウィルザードの玄関口、ルフォンである。ほんの数十年前までは荒れ果てた集落だったこの地域も、魔物娘の移民によって活気溢れる港町へと姿を変えていた。
「しかし、人間と魔物が真っ昼間から堂々と交流しているなんて、信じられない光景ですネ! 貴方達が言っていた、魔王の魔力によって全ての魔物が女性に変わったという話は真実だったというわけですカ!」
「信じてなかったのか?」
コレールが言った。
「信じられるわけないでしょウ! 私の生きていた時代じゃ魔物は人間を食料にしていましタ! そんな生き物と積極的に関わろうとする人間は、悪人か狂人のどちらかしかいませんでしたからネ!」
コレールは、クリスが自分の腕をぐいぐいと引っ張っていることに気が付いた。彼女の指差す先に目を向けると、ジパング式の技法と建材で建てられた小さな屋台があった。
「天ぷら屋台よ、コレール! ちょっと覗いていきましょうよ!」
「天ぷら? 何だそれは?」
「魚や野菜を、卵と溶き汁を小麦粉と合わせた衣で揚げたジパング料理よ! 私前から食べてみたかったの!」
魔物娘の時代が訪れると、明日の飯の種にも困る様な層が減少したこともあってか、料理文化が加速度的に発展した。ウィルザードも例外ではなく、中央大陸から海を渡ってきた魔物娘達によって、多種多様な食文化が持ち込まれたのである。
「コレール、種は何がいい?」
「何でもいいよ。お前が選んでくれ」
「それじゃあ、穴子と海老の天ぷらを一本ずつちょうだい!」
「おう、毎度!」
アカオニの屋台主はそう言うと、揚げたての天ぷらを二串、塩をまぶしてクリスに手渡した。
「どれ、お味を拝見……」
コレールは代金を払うクリスの背中を見ながら、何気無しに彼女から渡された海老の天ぷらを一口かじった。
「う……うまい! 何だこれは! 揚げ物なのにさっぱりしていて食べやすい! 衣もサクサクで、海老の柔らかさとの組み合わせが堪らない!」
「穴子の方も凄いわよ! ふんわりとした食感が病み付きになりそう! 香りの良い魚の油が口一杯に広がるわ!」
「よしクリス、お互いに交換しよう!」
「ええ、そうしましょう!」
テンションの上がった二人は互いの天ぷらを交換して、味見をした。
「「んまーーーい!!」」
自分の特製天ぷらの味を心行くまで楽しむ二人を眺めていたアカオニの屋台主は、ふと道の奥の方に人だかりが出来ていることに気が付いた。
「なぁ、お前さん達。悪いけど向こうの方が少し騒がしいから見てきてくれるか? 私が行ってもいいんだが、屋台からあまり離れたくないし、自分の場合余計に騒ぎを大きくしちまいそうだからな」
「ああ、いいぜ。美味しい天ぷらをありがとう」
コレールは快くアカオニの頼みを受け入れた。
「おい、どいてくれどいてくれ……何があったんだ? 喧嘩か?」
コレールが人だかりの最前線まで野次馬を押し退けていくと、地元人らしき男性が話しかけてきた。
「よせ。衛兵が来るまで関わらない方
がいい。ブルーエイジ派の連中がグラン派のシスターと揉めている」
「ぐ……グラタンが何だって?」
騒ぎの中心に目を向けるクリス。
三人の武装した人間が、曲線美のシスターに詰め寄っており、その間には彼女を庇う形で、薄汚れた作業服にゴーグルとバックパックを携えた、珍妙な格好をしたエルフの少女が立っていた。
「シスター。明日にでもここの教会をたたんで、我々と共に来てもらおうか」
「シスターに構わないでよ! 貴方達とは関係ないでしょ!」
三対一であるにも関わらず、果敢に啖呵を着るエルフの少女だったが、男の1人に突き飛ばされて尻餅をついてしまった。
「これ以上人々に間違った教えを広めさせるわけにはいかん。それに、『関係ない』はこっちの台詞だ。教団の身内同士の問題に首を突っ込むな、エルフ!」
「……賄賂も受け取る気がないっていうなら、仕方ないわね……」
エルフの少女は小さな声で呟くと、腰に
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