コレール=イーラ一行をのせた荷馬車は、ウィルザードの砂漠をサンリスタルからハースハートへと向かう方角へと進んでいた。
途中で砂嵐に巻き込まれるという予定外のアクシデント(エミリアの指示で、下手に動かず砂嵐が去るまでその場に待機した)に見舞われたため、オアシスに着く前に陽は沈んでしまったものの、満天の星々と蒼い満月が砂漠の闇を照らしており、幸い道に迷うような事態にはならなかった。
「なあ、ボス?」
「どうした、ドミノ」
荷車の上で、星の光を便りに魔物娘図鑑を読んでいたドミノが、何気ない感じでコレールに話しかける。
「『エンジェル』ってさぁ、主神の使いで禁欲的とか言ってる割りには、肩も太股も丸出しの服装で、バカじゃねーのって感じだよな」
「あー……確かに。せめて下半身はカバーしておくべきだな。空とか飛んだら、真下からパンツ見えるだろうし」
ドミノの主張に、コレールは同感の意を示した。
「あれだ。作業員とかがよく履いている、丈夫な長ズボンとか履けばいいんだよ」
「駄目よ、そんなの!」
「そうですよ、ドミノさん!」
彼の提案に、クリスとエミリアが二人揃って抗議する。
「なんでさ。あのズボンならパンツは絶対に見えなー―」
「「可愛くない
#8252;」」
「お、おう……」
二人が同時に発した言葉の剣幕に押され、ドミノは言葉に詰まった。
「……よし、じゃあこうしよう。下着を色気の無いものに代えるんだ。例えば……えっと、ふんどしとか」
服の袖を引っ張られる感触に振り替えると、パルムがスケッチブックを目の前にかざして、そこに書かれている文章を指し示す。
[それはそれで興奮する]
「……」
ドミノは絶句した。
ーーーーーーーーー
「誰がいるのか見えるか、エミィ?」
眉間に皺を寄せて双眼鏡を覗くエミリアに、コレールが問いかける。
コレールたちは、オアシスが肉眼で確認できる距離まで近づいた。しかし、そこには既に先客が訪れているらしく、キャンプファイアーの炎が赤々と燃え上がっている。そのような光景を見たときは、まず離れたところから偵察を行うのがウィルザードでの常識である。鉢合わせになった先客の正体が盗賊や奴隷商人だった……という事態を防ぐためだ。
「男の人が……います」
「何人だ?」
「一人みたいです」
「一人ィ!?」
エミリアの手から双眼鏡をもぎ取って覗き込むドミノ。
「マジで一人だ……まぁ、ハースハートも近いし、そこまで不用心というわけでもないか」
オアシスの側のキャンプファイアーでカエルやトカゲを素焼きにしていたのは、背が低く、これといった特徴もない壮年の男だった。
男はコレールたちの姿を認めると、首をちょこんと傾げて挨拶をした。
「どうも」
「あぁ、どうも。一緒してもいいかな?」
「大歓迎さ」
男はそう言うと、パチパチと賑やかな音を立てる焚き火に枯れ枝を何本か放り込んだ。
ーーーーーーーーーーー
「うん。このミネストローネ、冷えた体に染み渡る美味しさだな」
コレールたちは男と共にキャンプファイアーを囲み、エミリアの作った具沢山のミネストローネを楽しんでいた。
「ふふっ、ありがとうございます♪ おかわりはどうですか、おじ様?」
「あぁ、大丈夫。もうお腹いっぱいだよお嬢さん。ありがとな」
コレールは、男のくたびれた雰囲気の表情を眺めながら口を開いた。
「なぁあんた、連れはいないのか?」
「あぁ。しがない孤独な放浪者ってわけだ」
「そうか。私の名前はコレール=イーラ。良かったらお前の名前も教えてくれないか?」
コレールの頼みを聞いた男はククッと小さな笑みを溢した。
「お前さんたちの好きな呼び方で呼んでくれ」
予想外の返答に、コレールたちは思わずお互いの顔を見合わせた。好きに呼んでくれといっても、とっさに人の呼び方など思い付くはずもない。
「じゃあ……えっと……『ジョン』っていうのは……」
「そいつはありきたりだぜボス。『黄昏し者・ダン』にしよう」
「そういう類いのは頼むからやめてくれ」
ドミノのいやがらせ同然の提案には、流石に男自身から待ったがかかった。
「それなら……『フォークス』はどうかしら?」
「あっ、それ良いですね!私、好きです!」
[賛成]
クリスの案にエミリアとパルムの二人も同意する。
「よし、それじゃあ、俺のことは『フォークス』と呼んでくれ」
男は満足気に頷きながらそう答えた。
その後はしばらくの間他愛もない歓談が続いていたが、エミリアの自身の食の好みに関する話題(二口ほどで無くなってしまうような高級牛肉のソテーよりも、山盛りのフライドチキンの方が好みだという話だった)の後に、さりげない様子でフォー
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