「悪いけど、うちは魔物娘向けの衣服は扱ってないよ。分かったら、その犬娘の毛が商品に付く前に、とっとと出てってくれ」
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「見たか? あの店員の態度! ふざけやがって、てめえの毛の方がよっぽど不潔だって言ってやれば良かった!」
コレールはベルと繋いだ手をギュッと握りしめて、クリスに向かってギャアギャアと不満を吐き出しながら、商店が並ぶ街道を歩いていた。
「ねぇ、その……おいら……」
コボルトの少女はコレールの腕にすがり付くにして、モジモジと彼女に話しかける。
「おいら……別に、可愛い服とか似合わないし……それに、ご飯を食べさせてもらっただけで十分だから……」
「何だ、可愛い服には興味はないのか?」
コレールはベルに対して、からかうような笑みを浮かべて問いかけた。
「えっと……その……」
「可愛い服に興味はなくても、可愛い服を着たお前を見たカーティスの反応には、興味があるんじゃないのか?」
カーティスの名前が出た途端、ベルの顔はボシュッと音を立てそうな勢いで真っ赤に染まってしまい、そのまま黙りこんでしまった。
「沈黙は雄弁なり、ね。カーティスとは幼馴染みとか、そういう関係?」
「え、えぇと……」
ベルは少し躊躇したが、クリスの屈託のない優しい眼差しに促されて、少しずつ自身の事情を語り始めた。
物心付く前に奴隷商人に拉致されたこと、カーティスは奴隷商人の手中から救ってくれた恩人であること、顔すら分からない両親を探す旅の途中で、まとまったお金と拠点が必要だったこと。そして、アレクサンドラに雇われて宝玉を盗み出すために、コレールたちに接触したこと。
「そんなことが……やっぱりあの時、ちゃんと話を聞くべきだっーー」
言い終わる前に、クリスは自分の視界に入ってきた物の衝撃で口をつぐんだ。コレールとベルの二人も同じような反応だった。
三人の目の前に姿を現したのは、「ミルキー・ツインズ」と描かれた看板を掲げた、衣料品店だった。看板の横に「魔物娘歓迎! オーダーメイド承ります」と書かれているのは良いとして、問題はその外観だ。ショッキングピンクと紫色を貴重とした前衛的なデザインに、看板の文字は魔法の粉でも振りかけているのか、午後の日差しを受けてキラキラと白く輝いている。その風貌は服屋と言うより、成人男性御用達の類いの店を連想させた。
「……『魔物娘歓迎』だってさ……入る?」
「……別の店にしない?」
コレールとクリスは暫くの間店の前で意見交換をしていたが、最終的に中を見るだけと言う条件で、警戒しながらもベルと一緒に店内へと足を踏み入れた。
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「中も凄いなこれ……」
店の中に入ったコレールが最初に呟いた言葉がこれだった。店内は服屋にはあるまじき薄暗さで、唯一の光源は天井近くの空間をふよふよと浮かんでいる、桃色と紫色の魔法の光だけで、やはり「その手」の店を彷彿とさせる雰囲気に満ちている。
「あらお客さん?」
「まぁお客さん!」
店の奥から唄うように言葉を発しながら、店員らしき二人の女性が姿を表した。踊り子のような際どい服装を身に纏い、豊満な肉体の美しさを隠そうともしない褐色の美女ーー愛の女神「エロス」の教えの伝道師にして、性愛を担う水の精霊、アプサラスだ。
「ど、どうも、実はーー」
「嗚呼、何も言わないで、リザードマンの貴方」
「私たちにはお見通し。服が欲しいのは貴女の隣の子犬ちゃんでしょう?」
顔から体つき、喋り方に至るまで瓜二つの二人のアプサラスはそう言ってコレールの言葉を遮り、少し怯え気味のコボルトの少女の手を、片方ずつ手に取った。
「怖がらないで、可愛い子犬のお嬢さん。私たち双子はプロフェッショナル。だから言葉は必要ない」
「貴女の心は裸ん坊。切ない恋のざわめきを、小さな鼓動が教えてくれる」
双子の片方がベルの小さな胸に手を当てると、もう片方が妖艶な仕草で、何故か店内の中央にある、カーテンで仕切られた試着室の中へと誘おうとする。
「さぁ、貴方の全てをさらけ出して、恋に悩むお嬢さん! 裸の心の全てを知れば、貴方が服を選ばなくても、服が貴方を選んでくれるわ」
「恥ずかしいのは最初だけ! 小さな一歩を踏み出せば、貴方の奥の欲望が、貴方を女に変えてくれる」
「女となった貴女の姿を、密かに想う彼が見たら?」
「間違いないわ。貴女の魅力に、彼の心は愛の虜!」
ベルは訳も分からぬまま、双子のアプサラスと一緒に、試着室の中へと入っていってしまった。
「きゃっ!? ど、どこを触って……!」
「大丈夫よ、お嬢さん。貴女の体と心の形を、触って調べるだけだから」
「誰にだって初めてはあるもの。その内、良くなってくるから大丈夫」
コレールと
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