第15話「風が吹き抜けていく青空の下で@」

『砕け散った名君の仮面! 砂漠の水晶に秘められた奴隷売買の闇!』








「……うん、記事のタイトルはこんな感じで良さそうだね」

そう言うと 褐色肌の青年ーーに変装したアヌビスの少女は、満足気な表情で手帳を閉じる。

アレクサンドラの死から2日が経ち、ゴタゴタを済ませたコレールたちは、初日に訪れた大衆食堂トラトリアで、本件に関してカナリのインタビューを受けていた。弟が無事に助かってご満悦のペリコも一緒だ。




サリムとアラークは避難通路から城の外へと脱出した後、街中を見回っていたり、兵舎の中に居たり、状況を把握できずに城の中で右往左往していた衛兵たちを取りまとめて、暴徒と化していた奴隷たちを鎮圧した。アレクサンドラの石像は既に原型を留めていない砂利と化していた。

広間で石像と化していた魔王軍の魔物娘たちは、サリムの指示によって直ぐさま石化の呪いを解かれ、自由の身を手に入れた。最初は自らの身に起きた出来事に戸惑う魔物娘も多かったが、最終的に大部分が魔王軍のウィルザードにおける拠点へと帰投することが出来た。

アレクサンドラの死によって空白となった玉座には自動的にサリムが座ることとなり、現在はアラークと共に、売られかけた人々への慰謝料の調達や、既に奴隷として売られてしまった人々の追跡と、奴隷の購入者などその他の関係者の特定に当たっているという。






「それにしても、女王が奴隷売買に手を染めていたなんて、恐ろしいな。もしかしたら、行方不明者の身辺を探り回っていた僕も、その例の広間に石像として飾られていたかもしれないね」

カナリはポケットから一枚の羊皮紙を取り出して、コレールの前に広げた。

「なんだ、これ? 地図か?」

「そ。貴方たち、ウィルザードで魂の宝玉っていうのを探してるんでしょ? それならハースハートに来るといいよ。そういうアーティファクトについて調べるのに適した大図書館もあるし、貴方たちが来るのを待っている間、僕の方でも調べておくよ」

カナリはコレールに自宅の周辺地図を手渡すと、腰を上げて親しみを込めた笑顔を浮かべた。

「ハースハートに着いたら、一番最初に僕の家を訪ねてね! ヒーローをうちに迎えることが出来るなんて、光栄だからさ!」






「ヒーロー……ね……」

トラトリアを後にするカナリの背中を見送った後、テーブルの上のジョッキを見つめながら、クリスは重苦しい溜め息をついた。

「おい……まさかてめぇ、まだアレクサンドラのこと引きずってるんじゃねえだろうな」

クリスの様子に気づいたドミノは、イラついた表情でフォークを手に取り、先端でテーブルをコンコンと突っつき始める。

「目の前であんな死に方されたら、引きずりもするわよ。本当に助ける方法はなかったのかって。彼女にもやり直す機会があったんじゃないかって……」

ドミノはクリスに対して怒濤の勢いで、彼女の考え方が如何に偽善的で、道徳に反するかを指摘しようとしたが、その前にコレールが強めにテーブルを叩いたため、この場は沈黙するべきだと考え直した。

「クリス。この件に関して、これ以上議論するのは無しだ。お前も、他の皆も、出来る限りのことをやった。私たちは神様じゃないんだ。全ての人間や魔物娘を救えるわけじゃない」

コレールの毅然とした言葉にクリスも黙って頷き、これ以上アレクサンドラの話を蒸し返さないことに決めた。

「んなことより、エミィはまだなのか? 早くしないとパスタが来ちまうぜ!」

「エミィには次の遠征に必要な物資の調達を頼んでる。そろそろ戻ってくるはずだ」

「はぁ!? ボス、あんたあんなことがあった直後にエミィを一人で行動させるとか、気は確かか!?」

「一人じゃないわよぉ。優秀なボディーガードが付いてるわ」

ドミノとコレールの会話に、頬杖をついたペリコが穏やかに横やりを入れてきた。

「ていうか、あの子に一緒にいるように指示したのって、ドミノじゃないの?」

「え? ……あ……あー……そういえばそうだった……」

「頭の中にネズミが巣でも作ってるんじゃない?」

ドミノはクリスの皮肉に耳穴の消毒が必要になるレベルの汚ならしい言葉で反撃しようとしたが、コレールが再び 強めにテーブルを叩いたため、この場は沈黙するべきだと改めて考え直した。



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「ふぅ、ふう……重いです……」

真昼の炎天下の街中を、背中に大量の荷物を背負ったホブゴブリンがのそのそと歩いていた。

奴隷売買の事件の後、ドミノとクリスの服は本人たちの手に戻ってきたのだが、何故かエミリアの服だけは行方不明となって戻ってこなかったため、彼女は新しい旅用の装備を調達せざるを得なかった。

とは言うものの、薄手の革で拵えられたビキニア
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