「クリス……それは本当……なのか……?」
ふらふらと今にも倒れそうな足取りで、クリスの元へと歩んでいくアラークを見たコレールは、憤然とした面持ちで二人の間に割って入った。
「今ここで、立場をはっきりさせるんだアラーク。私たちを信じるか、それとも女王を信じるか」
コレールは血の滴る握り拳を彼の胸の前に突きつけ、射殺すような視線でアラークの眼を見つめた。
「アラーク? まさか私の言葉よりも、その人外共の言葉の方を信頼するなどということはーー」
「女王陛下!!」
憮然とした表情で語られた女王の言葉は、アラークが突如振り向き、鋼鉄の剣を玉座に座る彼女に向かって突き付けることで遮られた。
「もし貴女が本当に奴隷売買に手を染めていないというならば、ここで誓って頂きたい! ウィルザード皇帝に忠誠を誓う国の王という肩書きにかけて、決して皇帝の法に逆らうような真似はしていないと! 」
アレクサンドラの顔が怒りと屈辱に歪む。
アラークの言い方には、彼なりの考えが含まれていた。アレクサンドラ女王は非常にプライドの高い人間であることをアラークは知っていた。
もし本当に彼女が奴隷売買に手を染めていたとすれば、信頼する部下の前で平然と嘘をついて「誓う」ようなことなど不可能であり、何らかのアクションを起こすだろうということを見越しての発言だった。
アレクサンドラは赤い宝玉を取り付けた魔杖を握り締めてゆっくりと玉座から腰を上げると、次の瞬間にはその姿は赤い煙と共に玉座の前から消え失せていた。
「逃げたの!?」
そう叫ぶクリスの背後からアレクサンドラが、杖の先から赤い光を迸らせながら姿を現す。彼女は既に石化光線の発射準備に入っていた。
「クリス!」
とっさの動きでアラークはクリスの元に駆け寄り、彼女を庇うような姿勢で突き飛ばす。
杖の先から放たれた赤い光線は、容赦なくアラークの体を貫いた。
「アラーク! そんな!」
「すまないクリス……私が……間違っ…………て…………い……………………た………………」
クリスは悲痛な叫び声を上げて差し出されたアラークの手を掴もうとする。しかし、その手が触れる前に、彼の肉体は指先まで血の通わない石像と化してしまった。
「拾ってやった恩義を忘れて、飼い主の手に噛みつこうとするなんて……私と貴方の関係はこれまでよ、アラーク」
アレクサンドラは汚物か何かを見るような目で物言わぬ石像となったアラークに目を向けると、杖から発する魔力で彼の体を浮かび上がらせて、コレールたちに向ける盾となるような形にした。
「安心しなさい、貴方たちスパイもすぐにアラークの後を追わせてあげるわ。……粉々の砂利にして、海に流してあげる!」
もはや邪悪な本性を隠そうともしなくなったアレクサンドラは、アラークを盾にしてその陰で、杖の先端に魔力を込め始めた。
「10秒もしない内に、貴方たち全員を一瞬で石化するほどの威力の光線が放てるわ……! これが魂の宝玉の持つ力よ!」
「おいどうするんだよボス! こうなったらアラークごとあの女を殺るしか……!」
八方塞がりの状況に動揺するドミノとパルムをよそに、コレールとクリスは意外なほど冷静さを保っていた。曲がりなりにも彼女たちは魔王軍の軍人であり、伊達に二人で修羅場をくぐってきたわけではないのだ。
コレールは素早い動きで懐からダガーを取り出し、アレクサンドラの左目に向けて投げつける。
「くっ!」
アレクサンドラはすかさず自身の顔面をアラークの影に隠して身を守った。それほどの重量が有るわけでもないダガーは完全に石像と化したアラークの体に容易に弾かれ、そのまま床へと落下する。
「ふふ……不意打ちのつもり? 残念だったわね、もう時間切れよ」
邪な笑みを浮かべて杖を振り上げようとして、アレクサンドラはぴたりとその動きを止めた。
「(あの猫娘が……いない!?)」
彼女が振り向こうとした時には既に、その右腕は極低温の霜に覆われていた。クリスはアレクサンドラがアラークの陰に隠れた一瞬の隙を突き、キャット族特有のフットワークで彼女の側面に回り込んでいたのだ。
「『黒き侵食』!」
二人の作戦の意図に気付いたドミノは慌てて召喚魔法を発動し、凍傷を負ったアレクサンドラの右手から落とされた魔杖を、二匹のネズミに回収させる。
「うぐぐ……! やってみなさいよ! もう一度石化魔法を食らったりしたら、アラークの体は粉々にーーひいっ!?」
ネズミたちから杖を受け取ったコレールに対して叫ぶアレクサンドラ。その体がクリスの凍結魔法によって凍った床で滑り、背中から倒れ込む。
「ぐえっ!」
その上から浮遊魔法の効果が切れたアラークの石像がのし掛かり、潰れたカエルの様な鳴き声を上げる。魔杖を失っ
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