国王のお膝元である巨大な城の地下室で、ジョン=ヘリックスは目を覚ました。
「……んん……!? ここはどこだ? 何故私は縛られているのだ!?
」
ヘリックスは自分が、まるで尋問を受ける密通者の様に頑丈な縄で椅子に縛りつけられていることに気づくと、慌てて身を捩り、拘束から逃れようとした。
「ああ、ヘリックスさン? 後生ですから下手に暴れないでくれますカ?」
「……! その声はベントだな!? 」
「足元を見てくださイ。魔方陣が見えるでしょウ? 私が見る限りこいつは、強大且つ不安定な魔力を秘めた代物でス。無闇に暴れたり破壊魔法を使おうとすれば、我々はたちまち元素の塵と化してしまいますヨ! いや参ったねコリャ 」
暗闇に目が慣れてきたのか、ヘリックスの目にもベントの言う足元の魔方陣の形が見えてきた。それ以外にも、自分とベント、そして残りの三人の同胞は、背中合わせの五角形に並べられた椅子に拘束されており、各々の眼前には宝玉の様なものが飾られた祭壇が置かれていることが理解できたが、事態を好転させるための手掛かりは存在していなさそうだった。
「どうやら我々は王の仕掛けた罠に嵌まったそうですネ。あのワインに一服盛られていないか確かめておくべきでしタ」
「んん……ワインをもっと頂戴……あら、私ったら飲み過ぎたのかしら。ここはどこ?」
「理論的に考えるならば、私達は薬を盛られて身柄を拘束されたと仮定するのが一番無難と言えるでしょう」
「スーパーコイル、貴方っていつもそう! 一言で済むようなことを、一々回りくどい言葉にして!」
「まぁまぁマダム・リンキング。取り敢えず皆で落ち着くために、歌でも歌いませんカ? んん~ん、ん~♪」
同胞等の呑気な言動に、ヘリックスの堪忍袋の尾が切れた。
「貴様等少しは自分の置かれている状況を自覚しろ! ラゼン、貴様はとっとと目を覚ませ!」
「zzz……」
ヘリックスは歯軋りしながら目を細めて、暗闇の奥に何か見えないか確認する。魔方陣の周りに多くの人影の様な物が見えてきたが、特徴的な形のローブを纏ったそれらが何なのか分かった時、頭をレンガで殴られたような感覚を覚えた。
「お前達……裏切ったのか! この魔術結社で最も優秀な5人のマスターウィザードを、裏切ったというのか!」
「……始めろ」
どこからか響いてきた王の言葉を合図として、裏切り者の魔術師達は一斉に呪文を唱え始めた。魔方陣が強烈な光を放ち、地下室全体が小刻みな震動を始める。
ヘリックスは憤怒と絶望に打ちひしがれながら、自分の魂が肉体から引き剥がされていく感覚を味わうことしかできなかった。
---------------------------
「進路よし! ヨーソロー!」
(プレッシャーが僕にのしかかる)
(君を押しつぶそうとする 頼んでもないのに)
「ウィルザード……荒野と砂漠の大陸か……」
(プレッシャーの下でーー建物は壊れていく)
(家族は散り散りとなり)
(人々は路頭に迷う)
「ううん、釣れないなぁ」
(それは別にいいんだ)
「Mr.スマイリーに、『赤い砂嵐』……ウィルザードには物騒な話ばかりだ」
(知ろうとする恐怖)
(この世界が一体何なのかを知る恐怖)
(仲間たちが見える)
「お嬢さん、ボディーガードは要らないか?」
(叫んでいる 『解放してくれ!』)
(明日に祈ろうーー僕を持ち上げてくれ)
(プレッシャーが人間へとーー路上の人間へと)
「ありがと。でも、連れがいるから大丈夫」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
リディーマーズ 〜砂の王冠〜
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー数百年の時は流れ、吟遊詩人が語るは魔物娘が世界を席巻する時代。荒野の大陸へと向かって海流に乗る、一隻の連絡船の船室のベッドで、一人のリザードマンが惰眠を貪っていた。
「むぅ……」
その肌は浅黒く、引き締まった大柄の肉体と相まって、眠っていてなお戦闘民族の風貌を醸し出している。しかし、長いまつ毛が特徴的な整った顔立ちに加え、寝息と共に微かに揺れ、袖無しの下着から谷間を覗かせる豊満な双丘は、彼女のエキゾチックな魅力を引き立てさせるには十分だった。
「コレール! 起きて! 起きなさいって!」
「むぐ……」
頬っぺたを杖の柄で突つかれて、コレールと呼ばれたリザードマンは不満そうな唸り声を上げて目を覚ました。
「もうお昼過ぎよ! 私は甲板に出てるからね!」
コレールを叩き起こしたのは、全身を純白の体毛で覆われた、猫型の獣人の女の子だった。大きな猫耳を
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録