サイクロプスとチョコレート

「はぁ……」

額に立派な角を生やしたサイクロプスのマーシャは、重苦しいため息をつきながら亜麻色の髪を揺らして、ふらふらと街中を彷徨っていた。

今日はバレンタインデー。女性が意中の男性にチョコレートを渡して、思いを伝える日。

いつもは恋愛―ーいや、人間との交流そのものに対して消極的なマーシャも、この日ばかりはと奮発して、腕によりをかけた手作りチョコレートを作っていた。

だが不幸なことに彼女はつい最近この街に住み着いたばかりの新参者であり、加えて街の首長が反魔物的な政策方針の転換を試みたのも決して昔のことではなかった。

街の人々は陰湿な罵声を浴びせるようなことはしなかったが、彼女の単眼に見すくめられるのを恐れて、マーシャをまるで幽霊か何かのように扱っていた。

「(みんな、私みたいな一つ目お化けの作ったチョコレートなんていらないんだろうな……)」

自己嫌悪に沈むマーシャの腰に、軽い衝撃が走る。

「えっ?」

とっさに手をやると、先程まで確かにそこにあったはずの金貨入りの麻袋が無くなっている。顔を上げると、麻袋を右手に握り締めて走り去ろうとしている少年らしき人間の背中が見えた。

「こ、こら! 待ちなさい!」

サイクロプスの少女は慌ててスリの少年の追跡を始めた。


―――――――――――――――――

「はぁ、はぁ……やっと追い詰めた……」

マーシャの豊満な肉体は「走る」という行為に関してはさほど意味をなさないらしく、少年を人気の無い路地裏まで追い詰めた頃には完全に息が上がっていた。

「はぁ……ほら、私の財布を……返して……」

スリの少年は返事の代わりにんべっと舌を出した。

「もう! 大人しく返さないと、本気で怒るよ!」

拳を振り回すマーシャだったが、小柄で筋肉もなく、語気に迫力も感じられないサイクロプスの少女がそんな仕草をしたところで、可愛らしさしかなかった。

「どこにやったの、私の財布!」

「隠したよ」

「隠したってどこに?」

「教えてもいいよ。その代わり……」

立ち上がった少年のズボンを見て、マーシャは息を呑んだ。

「(やだ、この子……勃起してる!?)」

「オレと、エッチなことしてよ」

「(えええっ!?)」

予想外の発言に思わず両手で口を押さえる。しかし、とんがった耳の先まで真っ赤に染まった顔面を誤魔化すことはできなかった。

「魔物娘ってエッチなことが好きなんでしょ? お姉さん可愛いし、我慢できなかったんだ」

そのように話す少年の顔も真紅に染まり、女性に対してそのような関係を迫ることが初めてであることが伺える。

「そ、そんなはしたないこと……」

口ではそう言いながらも、マーシャの内心には嫌悪感とは正反対の感情が湧き上がっていた。

「(私、この男の子に強請られて、犯されちゃうんだ……エロ同人みたいに……)」

彼女も魔物娘である以上、ミノタウロスやドラゴンほどでなくとも、少年を腕力で無理やり言うことを聞かすぐらいのことは可能である。しかし、「身体的に自分より弱いはずの少年になすすべもなく犯される」という被虐の悦びを刺激するような想像に加えて、何より目の前の少年が、単眼であるがゆえに街の人間たちに恐れられている自分に対して素直に接するどころか、女として魅力的に感じてくれたという事実が、そのような選択肢をマーシャの脳内から跡形もなく吹き飛ばしていた。

「もう、しょうがないにゃあ……優しくしてよね」

マーシャはさも嫌々であるかのように言いながらも、傍にあった捨てられた絨毯をいそいそと地面に広げ始めた。



「うわ……おっぱい柔らか……」

少年は絨毯の上で向い合わせになる形で、マーシャの重量感がある胸を揉みしだいていた。

「(おっぱい触るのも初めてなのかな……目を丸くしちゃって可愛い……
#9829;)」

マーシャはドギマギしながら自身の乳に挑んでくる少年を母性の宿った単眼で見つめていた。

「お、オレ……直接触りたい!」

服の上からの愛撫だけでは満足できなかったのだろう。少年はマーシャの革でこしらえた胸当てを引き剥がすと、プルンと弾けるようにして露になった乳に食らいついた。顔を埋めるようにして乱暴に揉みしだき、母乳などでないにもかかわらず乳首を口に含み、もう片方の乳首を指で摘まみ上げる。

「(やっぱ男の子ってみんなおっぱい好きなんだ……)」

マーシャは数少ない友人のひとりであるバフォメットには、自分が見出したこの事実は黙っていようと決心した。

マーシャは少年の気が済むまで胸を好きにさせてやると、息を荒げながら一旦乳から顔を離した少年に語りかけた。

「ねぇ、キスとかはしなくていいの?」

「え! していいの!?」

「あなたの方からエッチなことしたいって言って
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