第9話「幻肢痛の少年A」

「何が目的だったんだ? 私たちの命だけか?」

「……」

「雇い主は誰だ?」

「……」

「服を脱がしたときに見えたんだけど、その義足は何処で手に入れた? ドワーフ製みたいだったな」

「……くたばりやがれ、アバズレ女……!」


少年は、青リンゴをかじりながら淡々と質問を続けるコレールに向かって吐き捨てた。

服を剥がれた少年は冷たく染みる夜の砂漠の砂の中で、尋問を受けることを強いられていた。首から下まで地面に埋め込まれていては、そう簡単に抜け出すこともできないだろう。

今のところ少年は、コレール達が期待しているような答えを1つも返していなかった。唯一判明した「カーティス」という名前も、「ガキ」 とか「坊主」呼ばわりが気に食わないから嫌々教えてやった、とでも言わんばかりの態度だ。

「コレール……! 子供相手にいくらなんでも残酷過ぎるわ! もっと他にも方法がーー」

「どうするんだ? アンタがフェラチオでもしてやるか?」

見るに見かねたクリスの抗議に、ナイフを弄びながら下品な切り返しを放つドミノ。

「ボス、アンタは甘過ぎだ。ウィルザードの男は動けなくしたぐらいで情報を吐いたりしない。俺にやらせてくれ」

「駄目だよ。お前がやったら死んじゃうかもしれないだろ」

「ちぇっ」

図星だったらしく、ドミノは舌打ちをしてナイフをズボンのポケットにしまった。

「……おい」

カーティスが初めて自分の方からコレールに話し掛ける。

「どうした? 何か話す気になったか?」

「ベルはどこだ?」

その言葉に全員が振り向いて、気を失っているはずのコボルトの少女の姿を目に捉えようとする。だが、そのばに少女の姿はなく、焚き火の明かりの届かない、暗がりの向こうまで足跡が続いていた。

「え……! まさか独りで逃げたの!?」

「クリス、追うぞ! ドミノはここに残ってそいつを見張ってろ!」

コレールは二人に対して的確に指示を出すと、ベルという名のコボルトの少女を見つけるために、クリスと共に足跡を追い始めた。ここは砂漠のど真ん中である。魔物娘とは言え、何の物資も持たずにさ迷って無事で済むはずがない。

ドミノは急いで足跡を辿っていく二人の背中を見送ると、首を左右に振ってからカーティスの方を振り返り、そのまま地面に突っ伏した。

「……? お……! お……!?」

一瞬自分に何が起こったのか理解出来なかった。脳天に激しい衝撃と痛みが走ったと思った瞬間、地面の方から勝手に起き上がってきたのだ。どうにかして視線を上げると、いつの間にか穴から這い出していた少年が、少年自身を生き埋めにしたシャベルを握って立っていた。

「次は必ず出し抜いてやる」

カーティスは頭をシャベルで殴られ、ノックダウンされたドミノに向かってそう宣言すると、下着姿のままその場を走り去っていった。ドミノの方は脳震盪を起こしたらしく、逃走する少年の背中に向かって悪態を吐くことしか出来なかった。


ーーーーーーーーーーーー

キャンプファイヤーの元に戻ってきたコレールとクリスが最初に目にしたのは、エミリアが負傷したドミノを介抱している姿だった。

「コレールさん……!」

「あとで説明するよ、エミィ。ドミノ、あの坊主は?」

「……悪い、逃げられちまった。そっちも同じか?」

「滅茶苦茶な方向に辿らされた挙げ句、途中で途切れてたわ。多分、尻尾で足跡を消しながら逃げたんだと思う」

クリスが答える。

「最初から陽動のつもりだったんだ」

コレールはカーティスを埋めていた砂地の地面を調べながら呟いた。

「ボス。多分、あのガキはドワーフ製の義足で穴の回りの壁を少しずつ掘り進めて、這い出すためのスペースを確保していたんだ。……子供の癖に狡猾な奴だよ」

「そうか」

コレールは苦々しい表情で話すドミノに生返事を返すと、深い溜め息をついてその場に座り込んでしまった。

「……コレール?」

「クリス。私のやり方は間違ってたか?」

沈んだ表情で、先程ドミノのネズミが食い散らかしたサソリの残骸を見つめる。

「私は、お前たちには傷ついて欲しくなかったんだ。手を汚してほしくもなかった。疎まれるのは、私だけで良い」

「コレール……」

「拷問がぬる過ぎたっていう意味なら、まぁアンタのやり方は間違っているよ、ボス」

ドミノは傷を負った頭をさすりながら口を開く。

「死なせたくないっていうなら、爪の2枚か3枚でも剥がしてやるべきだったんだ。大抵の奴はそれで何でも話してくれる」

クリスは全身の毛を逆立たせてドミノに食って掛かった。

「相手は子供よ!? そんな残酷なこと出来るわけ無いじゃない!」

「純粋な残酷さなら大人より子供の方が上さ! オニモッドが復讐屋の仕事で何人の子供を廃人にす
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