「あう~~暇じゃあ~~恐ろしく暇なのじゃあ~~」
白いワンピースを身につけた一人の幼い少女が、うだつの上がらない表情で、切り開かれた街道を進んでいた。
一見人畜無害な子供にも見える姿ではあったが、地面に足を付けずにふよふよと移動している時点で、ただの子供ではないことははっきりとしている。
それもそのはず、このワンピースの少女、キーラは、魔物の中でも最高峰の力を持つ魔獣の一種である、バフォメットなのである。
尤も、他の多くのバフォメットと違い、キーラはサバトの教義だの魔王軍の最高幹部だのといった話にはあまり興味を持たず、小さな親魔物領の町でポーションを売って生計を立てていた。無論、生活は安定しているとは言え、そのような暮らし方をしていては刺激的な人生など望むべくはなかった。
「だからと言って今からサバトを作るのも面倒じゃな……あーあ、勇者のパーティでも攻めてこないものかのう」
「うわっ、何だ!? 浮いてる!?」
キーラの望みは以外にもその場で叶えられることになった。
街道の反対側から歩いてきた一人の少年が、仰天しながらも腰に下げた剣を抜いた。ぼんやりとしていたキーラも少年の存在に気づき、慌てて戦闘体制に入る。
「(これは……こやつ、主神の加護を受けておる。勇者じゃな!)」
「たーっ!」
少年の一振りはキーラの防御呪文(シールドスペル)に容易く跳ね返された。もんどりうって倒れた少年を、キーラは改めて観察する。
「(やれやれ……全く、随分ちみっこい勇者じゃのう)」
普通、勇者というのは長期間に渡って鍛練を積み、魔物に対抗しうる戦闘力や魔物の誘惑に屈しない精神力を養う必要があるとされている。
しかし、例えば小さな村に勇者の素質を持った子供が産まれたりすると、周りの人間がすぐにでも「勇者を輩出した村」という箔をつけたがったり、ただ単に勇者という存在に対する知識が不足してたりするなどの原因から、旅に必要最低限の身体能力と知識、そして精神力を備えた時点で、早々に勇者として送り出してしまうことも少なくない。
当然の結果として、そのような勇者は魔物娘の格好の獲物となってしまうのである。
黒髪でいかにも天然といった感じの勇者の少年は、何とか体を起こすと、キリッとした様子で再び剣を構えた。
「子供の姿をしてるけど、魔法が使える……さてはお前、『インプ』だな!?」
「……」
やはり、この少年もまた、未熟なまま放り出された類いの勇者であった。
バフォメットであるキーラにとって、この少年を追い払うことなど赤子の手を捻るに等しかったが、彼女はそれでは面白くないと考えた。
「ふふふ……儂はただのインプではないぞ? 普通のインプの十倍の力を持つ存在……名付けて『超インプじゃ!』」
言い終わってからもう少しましなネーミングは出来なかったのか、そもそもインプの上位種には既にアークインプが存在するじゃないか、と自分でも思ったが、少年の驚愕の表情を見る限り、どうやらハッタリは成功したようだった。
「じゅ、十倍……!? そんな、勝ち目がない……」
「当然じゃ。だがこのままお主を吹き飛ばしても面白くないのう……。どうじゃ、剣も魔法も使う必要のない、ちょっとしたゲームで決着を付けんか?」
「ゲーム……?」
少年は剣を握りしめたまま、訝しげにキーラの言葉を繰り返した。未熟とはいえ、魔物の誘いに容易く乗っかるほど単純というわけではないのだろう。キーラは手っ取り早く取引を成立するために、赤い宝石が埋め込まれた指輪を取り出した。
「もしお主がゲームで 儂に勝てたら、褒美にこの魔法の指輪をあげよう」
「魔法の指輪……効果は?」
「炎耐性 50%、体力自動回復」
「つ、強い!」
新米勇者にとってはかなり強力な効果を得られる指輪に、警戒心を抱いていた少年も食いつかざるを得なかった。
「よ、よしっ! その勝負、乗った!」
「そうこなくてはのう! では早速儂についてきて貰おうか」
ーーーーーーーーーーーー
そんなこんなで、キーラは自信が在住している親魔物領の一角にある宿屋の一室に、少年勇者を連れ込むことに成功したのだった。
「(最初はからかうだけのつもりだったのに……まさかここまでトントン拍子に上手くいくとは思わなんだ……)」
キーラは神妙な面持ちで窓の外を眺めていた。彼女の頭の中には葛藤が生じていた。
「(こんなコウノトリを信じてそうないたいけな子供に、あんなことやこんなことをするというのは倫理的にどうじゃろうか……)」
振り向くと少年はベッドの上に寝転がり、真っ白なシーツの肌触りと匂いを恍惚とした表情を浮かべて楽しんでいた。最近まで野宿が続いていたのだろう。半ズボン越しの引き締まった小さなお尻からは、
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