もの言わぬタタラ

とある山の中腹
そこに一人の鍛冶職人見習いの少女がいた。

「・・・・・・」

「良く見てろよ?これがお前の父親の打ち方だと言う事を・・・」
キンコンキンコン
金属に金属をぶつける音が響く。
それは段々と硬質な物になって行き、やがて一本の刀が出来あがる。
この部屋は石を組み合わせて作った謂わば隠れ家のような場所だ。
そこでこの親子はひっそりと暮らしては刃物や衣類などを街へ売りに行って生計を立てている。


それが、今から3年ほど前の話。
今では父親は流行病に罹り他界。
母親は修行に出ると言ったきり帰って来ない。

「・・・・・」
そんな中で、この少女「サイロ」は生きているのである。

―――――――――

そして、彼女は今日も街へ物を売りに来ていた。
こうでもしないと食べ物も買えずに飢えてしまうから。

「――でさ〜!あの子ったらなんて言ったと思う〜?」

「なんて言ったんだ?チョー気になる!」

「えっと、次の配達場所は――」

「・・・・」
通行人が目の前をたくさん横切って行く。
そんな中、サイロは1人座り込んで物を売り続ける。
無駄な客寄せなどしない。
どうせこの国には必要の無い武器類なのだから。
銃が国軍の正規武装となってから、剣や槍といった旧世代的な武器類は廃れて行く。
それは至極当然の事だろう。
便利な物は重宝され重要視される。
逆に古い物は次々と捨てられていく。
どこの世もそんなものだ。

「・・・・」

「うわぁ、何よアレ。チョー汚い」

「目合わせんな。アイツ一つ目だぜ?」

「うっわ、魔物なの〜?早く居なくなんないかな〜」

「・・・・・」
誹謗中傷など聞き飽きた。
元々は反魔物領で、王族が淫魔と婚儀を果たした事から親魔物領へと変わったこの国、強いてはこの城下町は未だに魔物を嫌う者など五万といる。
特に強く魔物を追い出そうとするのが老人達だ。
何かと文句をつけては魔物やその家族に執拗な嫌がらせばかりを行う集団が存在するらしい。

「またオマエか。もうここでの商売は止めろと言っとろうが!あぁ?!」
この爺さんもそうだ。
先の嫌がらせ集団の中でも上の階級に居るらしいが、相当ヒマなのかしょっちゅう私の邪魔をしに来る。
今日は用意が良いようで、杖ではなく古い箒で突いて来ている。
だが知った事か。
こんな老人の邪魔程度で立ち退くようでは商売など出来はしない。

「こら!何をしている!・・・・またアンタかじいさん!」

「離さんか!ワシはこのガキにこの街のルールを教えて・・」

「あ〜・・・おっ?先輩!この爺さんしょっ引いてくれませんか?」

「ん?ワタルか・・・・またアンタかじいさん・・・良かろう。んじゃ、署で待ってるからな。」
今回は運が良いらしい。
いつもなら私の服がボロボロになるくらいまで叩かれた後に爺さんがバテて帰るのだが、今回はあの人が助けてくれたのだ。
たまに私の事を助けてくれる自警団の男性。
ついさっきまで名前も知らなかったが、ワタルと言うらしいと言うのが分かった。
近所にある交番にいるらしい。
今度にでも遊びに行ってみようか。

「大丈夫だったか?またイジめられていたんだろ・・・」

「・・・うん・・」
この人の前だと、つい言葉を発してしまう。
何故こんな事になるのだろう。
自分でも分からない。

「ほら、一緒に署まで行こう?怪我直さないとな。」

「・・・・でも、売り物・・」

「一緒に運んでやるよ。な?」
そう言って、荷物をあっという間に包んだワタルは荷物を持った上で私を背負ってくれた。
見た目よりもずっと広い背中。
なんだか、懐かしいような気がする。

―――――――――

あっという間に交番まで着いてしまった。
案外近かったらしい。

「さ、適当に座って?薬箱出してくるから・・」
そう言って、私を降ろしたワタルは早々に部屋の奥に行ってしまう。
なんだか寂しい気分になったが、直ぐに戻ってきてくれて何だかホッとした。

「何故ワシが逮捕でコイツが保護なんじゃ〜!納得いか〜ん!」

「そりゃ、アンタが暴力振るってたからだろ?それも無抵抗な女の子を。」

「それでもじゃ!」

「・・・公務執行妨害と児童虐待、どっちがいい?」

「どっちもですよ、先輩?」
その通りである。

「・・・・」

「・・・よっし、これで完了っと。」
湿布が剥がれないように包帯を巻いただけの簡単な応急処置。
だけど、ワタルにして貰ったと言う事が無性に嬉しかった。

「・・・ありがと・・・」

「どういたしまして♪」
多分、この瞬間なのだろう。
恋に落ちてしまったのは。
笑顔が眩し過ぎたのか、心にキュンとした物が来たからかは分からない。
だが、一つだけは言える。
言い表しがたい形での愛を彼に覚えたのだ。

「しっかし、良く出
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