捕らぬ狸の皮算用

「はぁ・・・はぁ・・・」
何故、私は走っているのか。
答えは簡単だ。
今の私は、いつものんびりとしているモモでも、慌てて皿を割ってしまうモモでもない。
今の私は、狩人としてのモモだ。
そのケンタウロス特有の4本脚を自在に駆使し、獲物を追い詰めて行く・・・はずだった。

「ま・・・まてっ!」
私が追っている今回の獲物は、いつもと同じように鳥などの小動物だ。
しかし・・

一発目、明後日の方向に飛んで行く。
二発目、樹の幹に刺さる。
三発目、土を思い切り抉る。
四発目、取り落とす。
五発目、手で圧し折ってしまう。

このように、まるで狩りになどなっていない。

「うぅ・・・・なんでいつも・・」
私だって女の子だ。泣きたくもなる。
周りは森林で誰も居ないのだから、泣き顔を見られることも無いだろう。
そう思っていた。少なくともさっきまでは。

「ひぐっ・・・・えぐっ・・・」

「んっ?誰か居るの?」

「っ!?」
とっさに隠れた私のすぐ傍を、一人の青年が歩いて行く。
どうやら私たちと同じように狩人らしい。
背中に背負ったコンポジットボウが光り輝いているようにさえ見える。
ケンタウロスである私からすれば、こういう類の人間は商売敵とも取れる。
同じように獲物を取られる。それはつまり、自分の取り分が半減しかねないと言う事に繋がる。

「う・・動くなッ!!」

「うんっ?」
そんな商売敵をみすみす見過ごす筈も無く、私は弓に矢を番えて・・・・番えて・・・
矢のストックが心配になっていた私ではあったが、まさかさっき5発も放って外し、挙句矢を切らしていたとは気付きもしなかった。
しかも、相手側はまだまだ矢のストックは存分にある。
戦力の差は明確過ぎていた。

―――――――――――――

「あっはっは!なんてお茶目な!」

「うぅ・・・・返す言葉も無い・・・」
先程の警戒態勢とは打って変わって、私はこの男(名前はガイとしか教えてくれなかった。)と一緒に昼食を御馳走になっていた。
既に狩りを始めていたらしいガイは、袋に詰めてあった数匹の鳥たちをあっという間に捌いて焼き鳥を作ってくれている。
それがまた美味しく、まるで一流の料理人が味の仕込みをしているかのように絶妙だった。
私には到底まねできないな、うん。

「どう?美味しい?」

「う・・・うん・・・・でも、良かったのか?折角獲った獲物なのに・・」

「いいんだよ♪まだまだ沢山あるし、それに君みたいな可愛い子にも出会えたしね♪」
な、な、な、な、な、な、な・・・何を言っているのだこの男は!?
確かに、顔も悪くなく、寧ろイケメンの部類に入るだろう。
見た目的に大人しそうで、ど真ん中で私の好みだ。
だが、この男は本当に褒め慣れているのか、その笑顔は一片の作り笑いも無い。
そのまるで天使の微笑みの様な笑顔を見ていると、なんだかこっちの心が溶かされて行く様な気がする。

「そ・・・・そうか・・」
な、なんで私はこんな生返事しか出来ないんだろうか!
こんな自分が時に妬ましいと思う。どうして思いを伝えないのか!
簡単ではないか!「貴方に一目ぼれしましたっ!」これでいい・・・・これで・・

「っっっ!?!」

「わっ、大丈夫?」
気が付けば私の顔は真っ赤になっていたようだ。
頬を触れば、いつもよりも少し暖かい。
ガイの瞳に微かに映る自分も、顔は熱でも出たかのように真っ赤っ赤だ。
それよりも、ガイが顔を近づけてきたことで私の顔はもっと赤くなる。

「や・・やめてくれっ!それ以上近づかないでっ!」

「ん・・・分かったよ・・・」
あぁあああああっ!なんでこんな断り方しか出来ないのだ私はっ!?
今度この様な事があったら、その時は自らの腕で首を撥ねよう。
そうでもしなければやっていられない。恥ずかし過ぎる。
そんな恥晒しな行為、我々が行って良い道理がない。

「あ・・・いや・・・別に怒ってる訳とかではなくだな・・」

「そう・・・・なら良かった・・」
今更自分のポニーテールを弄りながら照れても遅いっ!!
そんな事では獲物はこの世の果てまで逃げているぞ!
しかし、すっかり意気消沈したガイの表情は、怒られた子供の様に暗かった。

「す・・・すまない・・」

「いいよ・・・怒ってない・・・」
暫くお互いに暗い顔になってしまっていた二人だが、ここで転機が訪れる。
急に、ガイがモモに乗ったのだ。

「なっ!?なななななななななな・・」

「ははっ♪やっぱり視界高いんだ!」
急に上に乗られて、顔を真っ赤にして言葉が出てこなくなってしまったモモを余所に、ガイはまるで子供のようにモモの上で視界の高さを実感していた。
ガイのその子供のような表情を見て、更にモモの顔は赤く染め上げられていく。
そんな時、不意にガイの股間にある何かが、
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