夜にもなると身体が凍りついてしまいそうな程に冷えた山の中。
この中を、野獣同然のように駆け回る一人の少年が居た。
「はっはっはっはっ・・・・」
狼か何かの真似でもしているかのような走り方の彼は、その瞳に人間としての知性を感じさせない。
それどころか、野性に目覚めた色をしている。
「あおぉぉぉぉん!!」
そこらへんの太い樹に上って、高い所から遠吠えを上げる少年。
その姿は、狼以外の何物にも見えなかった。
――――――――――――
「該当地域への侵入に成功しました。と、氷沙は現状を独り言として呟きます・・」
針葉樹林の生い茂る森に侵入してくる一人の影。
それは、薄手のローブに身を包んだ氷沙だった。
吹雪の吹き荒れる山の中も、何事も無いかのように歩くその姿は、まさしく妖怪としての雪女そのものに見えて仕方ない。
鬼の面は付けてはいないが、その無表情さは人々を凍らせるほどの威力がある。
「・・・・・・・今だ対象者の発見に至らず・・・捜索続行します。と、氷沙は――」
またもや独り言を続けようとした氷沙だったが、不意にその言葉は途切れた。
別に妨害などを受けて喋れなくなった訳ではない。
だからと言って喋れない状況になった訳でも無い。
ただ、明らかに人間の声で遠吠えが聞こえてきたのだ。
「・・対象者を発見。捕獲作戦に移行します。と、氷沙は任務内容を繰り返します。」
そう言うが早いか、氷沙は雪で走りにくいであろう斜面を、滑るように飛び出した。
そのまま、目標のいる位置まで飛んで行くようなスピードで迫る。
するとそこには。
「グルルルルル・・・・」
まるで狼の様な姿勢で威嚇している1人の少年がいた。
見た目からして、10歳前後と言ったところだろう。
因みに、女の子見たいな顔をしていて、男と判断出来る理由はただ一つ。
その腰に、大層なモノをぶらさげているからである。
「・・・・」
「ガゥッ!」
黙々と、作業をするように氷の弾丸を作っては少年に飛ばす氷沙は、冷や汗一つ掻いていない。
それに対して少年は、攻撃どころか近づく事すら出来ず苦戦している。
「捕獲用氷台、座標指定・・・」
「っ!」
氷沙が、対象を氷漬けにするトラップを張ろうと動きを一瞬止める。
その隙を偶然にも捉えた少年は、ここだとばかりに飛びかかる。
「範囲指定・・・・目標指定・・・・っ!?」
着々と指定作業を続けていた氷沙は、飛びかかって来た少年に押し倒される。
そして、あっという間に着ていた服を破り捨てられ、氷沙は白い肌を露わにしてしまう。
「どいてくd・・あぁぁっ!?!」
「グルルルル・・・」
圧し掛かって来た少年を退かせようとした氷沙だが、彼女の言葉が通じる筈も無く、少年は氷沙の肩に強靭な歯で噛み付く。
その時に肩の筋肉が切れる感覚と共に、氷沙は激痛のあまり身体の自由を失ってしまう。
「あ・・・あぁぁあ・・・かか・・りまし・・たね・・・」
「っ!?」
獲物を捕えた狼のようにニヤッと笑って肉を食い千切ろうとしていた少年を尻目に、氷沙は微笑み返した。
それと同時に、氷沙は自分ごと少年を氷漬けにしてしまったのだ。
二人の意識が、氷漬けにされると同時に薄れて消える。
その場には二人が交わっている様な体勢で一つの氷塊が出来ていた。
――――――――――――
「・・・っ?!」
気が付くと、少年は知らない天井を眺めていた。
真っ白なコンクリートの天井。
いつもなら薄暗い岩肌なのに、今回は違っていた。
しかも、鼻の効く少年だからこそ分かった事、縄張りの匂いが全くしない。
それもその筈だ。
ここは、氷沙達の訓練所とでも言うべき場所。
要は戦闘訓練所と言った所である。
「・・・・」
「っ!?グルルルル・・・」
少年が起き上がると、そこには先程まで戦っていた少女、氷沙がグッタリと首を俯かせていた。
その顔を見ただけで威嚇のために顔を顰める少年。
だが、彼女の手を見てその気は少し失せた。
「・・・・?」
文字の読めない少年は、その木の板に書かれている文字が分からなかったが、そこにはハッキリと「オルス」の文字が刻まれていた。
何度も書き直した跡がある事を見ると、名前を考えるのに相当苦労したようだ。
しかし、少年の興味もそこまでで、彼はベッドから起き上がるとその場を立ち去ろうとする。
しかし、ドアの開け方が分からない少年からすればそれは木の板で出来た壁としか認識できない。
「・・・・・・」
どうする事も出来ず、飼い主を待つ犬の様に座りこんで少年は扉が開くのを待っていた。
暫くの間は開くことも無かったのだが、不意に背後から何かが落ちる音がして少年は体をビクッと震わせて一瞬で警戒態勢に入っている。
「グルルル・・・・・?」
良く見ると、不意にした音
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