日差しは徐々に傾き始め、段々と夕日が空の色を支配し始めた頃。その頃にネルは、リーフの帰りを待って作業中の手を休めていた。
「・・ただいまぁ・・」
部屋の真ん中で寛いでいたネルは、リーフが帰って来たのを聞きとるとその場を立ち、満面の笑みでリーフを迎え入れた。やっと念願の兄に会えたのだ。あの出来事から数時間しか経ってはいなかったが、ネルには数日の様にも感じていた。
「ただいま・・ネル。」
そう言ったリーフは、いつもの様な元気を失っていたのがずっと一緒に住んで来たネルだからこそ分かった。やはり昼間の出来事で疲れたのだろうか。そう心配したネルだが、そんな事を考える暇も無くリーフが自分の部屋に入って行った。
「あれ?お兄ちゃん・・・これ落としたよね・・」
ネルは、リーフが部屋に入る直前にポケットから落としたメモ用紙を確認した。そこにはなにやら電話番号らしき数字が並んでいた。怪しいと思ったネルは、その紙を自分の体の花弁の間に隠した。
「さぁて・・ネル?大丈夫だった?あの後。」
暫くして普段着に着替えたリーフが部屋から出て来た。表情を見るに、先程のメモ用紙は気になっていない所を見ると、余程重要な物ではないらしい。そのまま放っておこうと思ったネルだが、一応は隠し持ったままにしておいた。
「うん!大丈夫だよ?寧ろ・・・お兄ちゃんと・・また・・したいかも・・」
リーフの問いに、一瞬の間を置いて笑顔で答えたネルは面白い事を思い浮かんで、リーフに艶やかな声で誘うように耳元で囁いた。
「ネル・・・また今度な。今は晩御飯だ!ネルだってお腹空いただろ?」
一瞬、ネルの誘惑に乗ったかのように思えたリーフだが直ぐに理性を以てしてネルの色気を纏った誘いをかわすと、晩御飯を食べるように言った。そして居間の扉を開けたネルは、そのまま台所へと行くと食材の選りすぐりを始めた。元々リーフの事で頭がいっぱいになっていて今晩の献立も考えていなかったのだ。なのでネルは一から献立を考えた。その結果「手作りハンバーグ」を作る事になったネルは、手っ取り早くハンバーグを作ってしまうとそのまま机の上へと並べた。
「それじゃ・・」
『いただきますっ!』
お互いに食器を持ち、食べる準備が整った所で二人は合唱でもするかのように息の合ったタイミングで手を合わせた。そして二人して早々と食事を済ませてしまった後は、それぞれ好きな事をやっていた。リーフは自分の部屋で勉強をしていた。ネルはと言うと。
「一体誰なんだろ・・この番号・・」
先程隠し持っておいたメモに書かれている電話番号に、黒電話のダイヤルを合わせていくネル。そして、最後の一つが周り切って電話が繋がった。
「・・・・・もしもし!リーフ君?私!早かったね!」
電話から出て来たのは、何処かで聞いた事がある女性の声だった。それを聞いたネルは、少しの間体が硬直してしまった
「・・もしもし?リーフ君?聞こえてる?」
考えた瞬間に声を聞くのも煩わしくなったネルは、そのままゆっくりと受話器を元の位置に戻した。女性側からすれば、知らない相手が間違って掛けて来たように思うだろう。それで良い。
「お兄ちゃんに問い質さなきゃ・・・待っててね?お兄ちゃん。今、私が皆からの毒を抜いてあげるからね?」
目の前にリーフは居ないと言うのに、ブツブツと呟いたネルは受話器を置くと一直線にリーフの部屋を目指して、いつものようにアルラウネ独特の遅い歩き方で向かった。
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