ここはとある戦場キャンプ。この俺、「チップ・セイリス」は現在、医療班で魔物の戦士や人間の戦士達を癒して回っている訳だが・・・
「・・・・」
このマーメイド(名前は「ウミ」と言うらしい。さっき聞いた。)は俺から離れようとしない。
この少女、どうやら怖がりと言うか内気と言うか、とにかく俺に頼りきりなのである。
「あの・・さ、ウミ?」
「・・・・なぁに?」
この通り、内気なのか無口なのか口数が少ない。
良く見れば身体も震えている。
まぁ、それは仕方の無い事だ。
なにしろ、今回の戦争相手はポセイドン。要は海の神様だ。
マーメイドであるウミにとっては生みの親の様な存在である。
それに牙を向けるのだから、彼女は怖がって震えているのだろう。
「――以上が、今回の殲滅作戦の概容だ。1分で頭に捻じ込め。」
『了解』
何人もの隊士が集まって作戦のブリーフィング中。
俺もこのブリーフィングには出席している。
一応、衛生兵の副リーダーを務めているので、俺も出なければいけなかったのだ。
こうなる少し前、ウミは自分の覚悟を決める為なのか一人にしてほしいと言って何処かへ行ってしまった。
特に落ち込んだ表情をしていたことからも、直ぐに彼女に何かあると言う事は読み取れた。
「それじゃ、俺は覚えたんでこれで・・」
「よしっ、皆もチップ見たいにさっさと覚えて出撃しろ!」
『は、はいっ!』
やれやれ、皆して慌てているな?
俺みたいに狡賢ければこんなに時間を食う事も無いだろうに。
要は、誰かが言った事を覚えておけばいいんだよ。
他の隊の兵士からの声を聞いても分かる。
書類うんぬんをめくっても分かる。
後で聞き忘れていたと言って知り合いに聞くのもアリだ。
そう考えると、俺は天才とも言えるのだろう。
こんなにも悪知恵が働くのだから。
――――――――――――――――――――――――――
その頃、ウミは海岸の波打ち際にいた。
一人のマーメイドと一緒に。
「――では、アナタは飽くまでもあの男と共に闘うと言うのですね?」
「そう・・・この気持ちは揺るがないわ・・・」
「ならば仕方無いでしょう。我が娘ウミよ。宮殿に入って来たのならば、貴女を敵とみなして消去します。」
「望む所・・・・だよ、お母さん・・・」
波打ち際で背中を合わせる様に話合っていたウミともう一人のマーメイド。
それはウミの母親だ。
名前は「アオ」と言う。
しかし、それよりも凄いものがあった。
彼女は、ポセイドンの親衛隊兵長。
要はエリート部隊の隊長と言う事だ。
「敵とみなして消去・・・かぁ・・・」
水に飛び込んで姿を消したアオ。
それから暫くして、身体中の力が抜けたウミは、その場に座り込んだ。
元々魔力で浮いているので、足が疲れた等は無い。
ただ単に、親の威勢に充てられただけに過ぎない。
正直言って、ウミがアオに勝てる確率は0に等しかった。
ウミもそれなりに魔力を使って戦って、それなりの戦果を上げている。
しかし、アオは全く違う。
アオの魔力は途方も無く多く、流石は親衛隊隊長を務めるだけのことはある。
「ウミ!此処にいたのか。」
「・・・・チップ・・」
「召集命令だ、行くぞ?」
暫くの間じっとしていたウミだったが、キャンプの方向からチップが走ってくるのを見つけて立ち上がった。
チップの存在を知っていたアオ。そして、自分を何故人間側へと行かせたのか分からないポセイドン。
この二人に、ウミは疑惑を覚えていた。
しかし、そんな事など知りもしないチップは、ウミの手を取って元来た方向へと走る。
その時のウミの顔が、恥ずかしさと嬉しさで赤くなっている事を、チップは全く知らなかった。
「――それで、隊長とか副隊長とかが・・・」
「・・・・・・」
「・・・なんでこうなってるんだ・・?」
ウミが驚き、チップが驚愕してる理由、それは目の前の編成にあった。
明らかに人数が少ないだけではない。
総数はざっと見積もっても10〜15人。攻め入るにしては頼りない人数だ。
それに、その半数以上はチップの見知った人物、つまりは衛生兵科の人間なのである。
一人の兵士がチップに、これからの概要を伝えていたが酷いものだった。
内容はこう。
「貴官等には、先発隊として出撃してもらう。
無駄と思った戦闘は極力回避、速やかに敵の首領であるポセイドンを打ち倒せ
尚、先刻伝えておいた時間迄に帰って来なかった場合は全員を死亡扱いとする。」
要するに特攻隊である。
相手の戦力、自軍の装備、兵の人数、士気、熟練度、その他諸々がBAD CONDITION過ぎる。
「それで、時間は・・?」
「現時刻より突撃せよとの事です。」
うわ、突撃って言っちゃったよ。
それでも、やるしかない。
ここで戸惑っていたら背中から味方の球に当たりかねない
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